行方不明になっていた巽完二は、三日くらいで帰ってきた。
わたしは委員会があったから居合わせなかったけれど、おばさんの話によれば花村先輩が引き摺ってきてくれたらしい。そのへんで拾ったんだ、と言われたとか。

「そのへんて、どのへんよ」
「……そのへん」

布団に寝そべり、わたしに背を向けて動かない完二。
わざわざ来てやったというのにその態度はなんだ。むかついて近場に転がっていた消しゴムを投げてやったが、まったく反応がない。つまんない。

「なあ、美咲」

今度は花瓶でも投げてやろうかと考えていた時、ふと完二が呟く。
わたしは伸ばしかけていた手を引っ込め、なに、と不機嫌丸出しの声で答えた。完二は慣れているのか、わたしの声音を華麗にスルーする。

「あいつら、お前の知り合いなんだろ?」
「?」
「アレだよ…茶髪のチャラそうな奴と、緑と赤の女子と、あと」
「あー」

そうか。あの四人は有名人だけど、完二は学校来てないから知らないのか。

「茶髪が花村陽介、緑が里中千枝、赤が天城雪子、もう一人は鳴上悠」
「……天城、って…あの旅館の?」

うん、と呟いて頷くと、完二が起き上がった。
今までダルそうにしていたのが嘘みたいだ。バネのように飛び起きた完二は、決死の形相でわたしへとにじりより、「先輩じゃねーか!!」と叫ぶ。
意味が分からん。先輩だよ、当たり前じゃない。何言ってるの。

「まじかよ…」

呆然とする完二は頭を押さえ、その場に項垂れた。
このぶんだと…あれかな。先輩たちに対してものすっごく失礼なことをしたとか…そのへんかな。完二、これでいて序列とか階級とか気にするし。

「やめてよね、あの人たち良い人なんだから」

変わった人たちではあるけど、それは事実だ。
といっても、わたしは花村先輩以外とまともに話したことないんだけど…まあ"あの"花村先輩と親しくできるんだ。良い人たちに決まっている。
……わたしにも、優しくしてくれるし。うん。

「分かってるよ。学校行ったら礼言うっつーの」
「!えっ。…学校来るの!?」

布団に戻り、再び背中を向けていた完二に詰め寄る。
思わず掴みかかってしまったが、わたしを振り払う元気はまだ無いらしい。完二は顔を真っ赤にしてうるせーなと吠え、早く離れろと怒鳴りつけてくる。

「一年生の教室、一階だからね」
「知ってる」
「完二は三組だよ」
「知ってるっつーの」
「担任めっちゃウザいけど頑張って!」
「お前がめっちゃウゼェわ!」

しがみついて離れないわたしに痺れを切らしたのか、完二は実力行使に出ようとする。寝そべったままわたしの肩を押し、引き剥がそうとして……硬直した。

「……何笑ってんだよ」
「嬉しいから。…ねえねえ、朝は一緒に行こうね」
「行かねーよ!」

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -