目を醒ました後の世界は、まるで別物だった。 空も、海も、森も。 すべてのものがキラキラと、生まれ変わったような輝きを放っている。 「…ああっ!そうや、そうや!そうやってん!!」 全員で祭儀場の淵に立ち、世界に見惚れていた時。 ふいに大声をあげたエルマーナは、頭をかかえて絶叫した。 「ウチ、思い出した!天上界はな、消滅したわけやなかってん。地上とくっついてしもててん!!」 「……ハァ!?」 スパーダが叫び、みんなが仰け反る。 私はリカルドと共に腕を組み、皆の驚愕顔を目に焼き付けた。 …ぷぷ。スパーダ、顔すごい面白い。 「…んだよ、カグヤ!なんか言いてぇことでもあんのか?」 「いやいや。無いよ?ふふ」 「笑ってんじゃねえか!つーかお前、全然驚いてねぇし…」 不思議そうなスパーダに微笑み返す。 …うん。全然驚いてない。 薄々感づいてたってのもあるけど…さっき見た光景で、確信を得た。 「アスラとイナンナの願いが同時に叶ったってことでしょ?エルマーナ」 「せや。アスラの『天と地を一つに』。イナンナの『天地融合の拒絶』。その二つが同時に叶ってしもたせいで、天地融合が中断されて…世界はメチャクチャになってしもたんや」 アスラとイナンナは、互いを真に愛し合っていた。 だから創世力を目の前に刺し違えて…『献身と信頼の証』をたててしまったわけだ。 「天と地が同時に存在するがゆえに、地上で転生者が存在する…」 「レムレース湿原に縛られたラティオの民の魂も、そういうことだったのね」 天と地が一緒になった、不完全な世界。 死体が動く湿原も、沈みゆく街も、すべてはその所為だったのだろう。 「…じゃあ、やっぱりあたしが余計なことしちゃったせいなのね」 「それは違うよ。イリア」 「そうそう。イナンナは、別にそんなことを望んでたわけじゃないもの」 頭を抱えたイリアが、ばつの悪そうな顔をする。 けれど彼女に腹を立てる者は誰もいない。 前世での、何千年も前に過ぎた話だ。責める謂れが無い。 「…天術の力も、消えたみたいね」 両手を胸元であわせながら、アンジュが言う。 転生者一同は自分の手のひらを見つめ、しばし目を瞬いた。 天と地が完全に重なった世界。 神の力を失った転生者は、天術を使うすべがなくなってしまったのだろう。 「それで、みんな。これからどうするか?」 今まで沈黙を守っていたキュキュが首を傾げる。 …もちろん、帰るのだろう。彼らは、彼らの日常に。 イリアがレグヌムに戻りたいと言い出し、ルカを赤面させる様子を微笑ましい気持ちで眺めていると、ちょっと待って、と誰かが彼らを引きとめた。 全員が目を瞬き、声の主…コンウェイを振り仰ぐ。 彼はまっすぐに私を見つめ、一笑もせずに言葉を継いだ。 「カグヤさん。君の『お願い』…今、ここで聞くよ」 「っ!」 「…え?何の話よ?」 イリアが目を眇め、コンウェイを睨む。 私の顔色が変わったのを感じ取ったのだろうか。 アンジュやエルマーナが不安そうに見上げてくるのが、少し嬉しかった。 「…覚えてたんだ。参ったな」 「だから!何の話だよ、カグヤ!?」 「まさかカグヤ姉ちゃん、おっちゃんに告白…ッ」 「ままままままさか!認めないわよ、あたしはっ!!」 エルマーナの頭を、リカルドが軽く小突く。 …告白、ねえ。 『お願い』の内容がもう少し軽ければ、乗ってボケるのも良かったんだけど。 「そんなんじゃないよ。もっと簡単なお願い」 コンウェイはきっと、内容なんて分かりきってるんだろう。 だけど敢えて、この場で尋ねた。 皆の旅が終わる前に…皆が、自分の日常へ戻ってしまう前に。 それはとても嬉しかったけれど、憎らしくもあった。 私は自然に浮かんだ笑みのまま、コンウェイに向き直り。息を吸った。 「コンウェイ。私を、殺してください」 |