言ってしまえばこれは、ボーナスステージだったんだ。 不遇だった私に。不幸だった私に。悔やんでいた私に。 本当の『神』とやらが在るのなら、きっとそれが与えてくれた。 だったら私は応えなくてはならない。 折角与えられたそのチャンスを、無駄にしてはならない。 私自身のために。 そして私が何よりも愛した、彼らのために。 * 「オイこら、そこのアンタ。何してんだよ、こんな戦場のど真ん中で」 岩に腰かけ、ぶらぶらと足を揺らしていた私に誰かが言う。 から揚げポテトを頬張りながら振り返れば、そこには見知らぬ三人組がいた。 横から銀髪、赤髪、緑の帽子頭だ。 「何って、食事。…あ、食べる?」 「いらないわよ!」 拾った小枝に刺したポテトを差し出したものの、即答で拒否られてしまった。 おいしいのに。 少しだけ傷ついて俯くと、赤髪は露骨に苛立った顔で歯軋りした。 「なんで戦場のど真ん中でから揚げ食ってんのって聞いてんの!」 「お腹がすいたからだけど?」 「だったら陣営戻れよ!狙撃されたらお終いだろうが!」 憤る赤髪と帽子に、銀髪があたふたと慌てている。 私は彼らに怒鳴られながら、最後のから揚げを口に放り込んだ。 もぐもぐと咀嚼し、嚥下した頃には、二人も幾分落ち着いたようだった。 「え、えーと…君、転生者部隊だよね?レグヌム軍の」 「レグヌム軍…あー、そういえばそんな名前だったような気がするなぁ」 彼らは脂っぽい唇を拭う私を胡散臭そうに見つめていたものの、"転生者部隊"であることを肯定した後は、随分と視線のトゲも和らいだ。気がする。 「君たちも、なんとか法で捕まっちゃった人たちなの?」 「異能者捕縛適応法、ね。そうなんだ。それでこんな戦場に送り込まれて…」 つらつらと法令の名前を出した銀髪は、段々と声のトーンを落としていった。 その様子だと、どうも戦場が嫌らしい。 帽子に尻を蹴られ、ひゃあと悲鳴をあげた彼は見事に涙目だった。 「私は、三日くらい前かな。人違いで捕まっちゃったんだけど、私も異能者だったものだから。災難って本当にあるものなんだねー、困っちゃうよ」 「…なんか、あんたノンビリしてんのね」 「よく生き残れたな。三日間」 ぼそぼそと囁きあう二人だけど、聞こえてますよーバッチリ。 心外そうに見つめていると、慌てた銀髪が赤髪と帽子を窘めていた。 ううん。そろそろ本題に入ったほうがいいかな。 「ねえ。右からアスラにイナンナ…で、あってる?」 「!」 「帽子の君はちょっと分からないな。ごめんね」 唐突に切り出した"本題"に、三人の表情が変わった。 否定はされなかったから、アスラとイナンナはアタリなのだろう。 帽子の少年は疎外感を感じたのか、少し不満そうだった。 「オレの前世は聖剣デュランダルだ。今はスパーダって名前だけどな」 デュランダル、と復唱する。 聞きなれた名前だった。姿を見たことは、一度もなかったけど。 「アスラの剣かあ。じゃあ、正真正銘初めまして、だね」 岩から飛び跳ねるように降りて、三人組と目線を合わせる。 イナンナと…スパーダ?はきょとんとしていたが、アスラは違った。 あっ、と叫んで、私の顔をまじまじと凝視してくる。 「君は…もしかして、クシナダ?」 「ん。正解!」 笑う私に続き、イナンナが歓声じみた叫びをあげた。 どうやら思い出してくれたらしい。 やっとまともそうなのに会えたと言って、目を輝かせている。 「クシナダって、アレでしょ。籠ん中に引きこもってた奴!」 「…は?籠?」 スパーダが目を眇めると、イナンナは愉しげににやりと笑った。 あることないこと喋りそうな雰囲気だ。それを悟ったのか、現世では随分と気弱そうなアスラが代わって説明を始めていく。 「クシナダはセンサスの女神だけど、大きな籠から出てこなかったんだ。 だけどアスラとは凄く仲がよくて。戦が終わるたび、報告に行ってたな」 「…あの時のアスラは、本当に子どもみたいだったな」 懐かしい思いで口を挟む。現世のアスラは、照れたように頬を掻いた。 一方スパーダはこの説明で満足できたのかは知らないが、しきりに頷いている。 「言われてみりゃあ、名前くらいは知ってる…かも。うん」 「…無理しなくていいよ?」 「マジだって!」 ムキになって詰め寄ってくるスパーダが可笑しくて、笑ってしまう。 いつの間にか、アスラやイナンナも一緒になって笑っていた。 …なんだか昔に戻ったみたいだ。嬉しい反面、寂しい気持ちにもなる。 「そうだ、自己紹介してなかったわよね。 あたしはイリア・アニーミ。前世はイナンナだけど、イリアって呼んで」 「僕はルカ・ミルダ。よろしくね、えっと…」 イリアに、ルカ。 頭の中のアスラやイナンナと重ねないよう意識して、覚えた。 「…ああ、私の名前?…そうだね。カグヤって呼んで」 「?なんだそりゃ。テキトーだな」 戸惑うルカに名乗ると、スパーダが訝ってきた。 私は曖昧に笑ってみせ、まあいいじゃない、と誤魔化す。 「そんなことより、移動しない?銃声が近くなってきてる」 昔から、会話を煙に巻くのは得意だった。 私がそう言うと、三人は耳を澄ませると同時に口を噤む。 そして実際に銃声を近くで聞いたのか、小さく頷き。 私を加えた四人組となって、その場からそそくさと立ち去ったのだった。 |