傷つき、仰臥してもハスタはハスタだった。
突然高笑いし始めたかと思えば、両手を投げ出して愚痴ったりする。
…変な奴だ。本当に。

「次な。次転生したらお前、ガチで殺す。覚えとけ…」

上半身を僅かに起こしたハスタが、スパーダに指を突きつける。
スパーダは忌々しげに鼻を鳴らした。
そして何かを言おうとしたものの…ふいに横を通った人物に、目を奪われる。

「残念だけど」

臥さるハスタに歩み寄り、枕元にしゃがみこみ。
悲哀の表情を浮かべたコンウェイは、ゆっくりと微笑んでみせた。

「君にもう、"次"は無いんだ」
「はぁ…?んなワケ、ねーだろ…だって俺…今まで、何べんも……」

その疑問の声が、彼の最期の言葉だった。
コンウェイは目を開けたまま息絶えたハスタの体へ右手を翳す。
その途端に、ハスタの体が解けるように消滅し、一つの白い光の塊と化した。

「…あれが、『魂の救済』…?」

浮き上がった光の塊が、ハスタの魂なのだろうか。
それは暫しフワフワと空中を漂った後、吸い込まれるようにコンウェイの手の中へと消えた。彼の右手に填められた石が、一瞬の淡い光を放つ。

「コンウェイさん。今、なにを…?」
「…ただのおまじないだよ。なんのことはない」
「…」
「先に進もう。王都兵が近づいてきている」

私とキュキュの視線を知ってか知らないでか、コンウェイが階段の上を指差す。
それ以上、彼に言及する者はいなかった。
誰からともなく足を踏み出し、再び長い長い螺旋階段を昇っていく。

「にしても、せーせーしたわねぇ!ハスタのヤツ!!」

近場の教団員を銃身でぶん殴り、イリアが晴れやかな声を出す。
彼女の声には、即座にスパーダが嫌そうな顔で同意した。

「オレは前世と現世でヤツに関わった。もう顔も見たくねぇぜ」
「俺もだ。記憶にこびりついたぶん、二度と現れないで貰いたいな」

死んでからも変わらずの扱いだ。
思わず苦笑してしまったものの、ハスタが嫌いなのは私も同じ。
ヘタに口を挟んで不快なイジリを受けるのもイヤなので、黙っておいた。

「僕もあの人から受けた傷の痛み、忘れられないよ」
「…」
「だけど憎いのとは違う気がする。困った人だったとは思うけど、嫌いだったかどうかは分からないや」

なんという優等生発言。
スパーダとイリアが驚愕に目を剥き、嫌ですわぁと顔を見合わせた。
私はイリアの抱えたコーダと共に、複雑な表情を浮かべる。

「…それってさー、ルカ」
「あのパスタってヤツがどーでもいいってことだな。しかし」

ルカは乾いた笑いを浮かべ、そうかも、と同意した。
…コーダがハスタの名を間違って覚えていることを指摘するのは、ヤボかな。

「コーダ、パスタパスタ言わんといてくれる?ウチお腹減ってきたわ」
「あとで何か作りましょうか。決戦前に英気を養いましょう」
「さんせー!」

やっぱり指摘すれば良かった。
アンジュの提案にくるくる回って喜ぶキュキュとエルマーナ。
すぐさまリカルドに叱られていたものの、その勢いは少しも削げなかった。

シーフードにするか。サバみそにするか。
それともトマトにするか、和気藹々と語り合いはじめる。

…本当に仕方ないなあ、この子たちは。

「ボクはトマト以外ならなんでもいいよ」
「…じゃあ私はトマトが食べたい」
「カグヤさん」
「ごめんなさい」

間髪入れずに頭を下げた私に、仲間たちがけらけらと笑う。

さっき、この状況でも遊べるエルを尊敬する、なんて言ったけど。
しようと思えば、誰だってふざけられるんじゃないだろうか。
彼らの未来を見る力が、気持ちが消えない限り。
彼らはどんな地獄でだって、笑っていられるんじゃないだろうか。

もしそうだったら、どんなにか幸せだろう。

「…うわ、カグヤ。何にやにやしてんの?」
「カグヤ姉ちゃーん、もう少し緊張感持ったほうがエエんとちゃう?」
「……」

…やっぱり気のせいかもしれない。
筆舌尽くしがたい複雑な気分に駆られたので、とりあえず近くにいたリカルドの後ろ髪を引っ張ってみた。怒られた。当然だけど。

階段を昇っていくと、再び外の踊り場に出た。
広々と広がった空間。
本当に高い塔だ。それこそ、雲の上まで届きそうなくらい。

「!何か来る…」

外から聞こえるプロペラの音。
いつかも聞いた音に顔をしかめると、案の定機械人形が飛来してきた。
なんだっけ、名前。ギガンテス…?

「ほう!お前ら、まだ生きていたか!」

飛ぶギガンテスから搭乗者の声が聞こえてくる。
慣れない声に首を傾げたが、イリア曰く『ブタバルド』らしい。
ハスタの雇い主か。若干名前が違う気がするけど、まあどうでもいいか。

「黙れ!俺をそんな名前で呼ぶな!」

本人は良くないらしい。普通に怒っている。
が、臆する面々でも無かった。スパーダが嘲笑して鼻を鳴らす。

「権力にまみれて肥え膨れた野郎が何言ってんだよ!悔しかったらダイエットを成功させてみな!」
「貴様ら…!いいだろう!この新型の性能を試してくれる!!」

憤ったブタバルドの話を聞く限り、彼も創世力目当てらしい。
マティウス戦のウォームアップだと高らかに言い、くるくると機体を回す。
踊るような華麗な動きだったが…重要なのは、そこじゃなかった。

「あの背中のシリンダー…まさか!」
「兄者!!」
「おやおや、見えたか?確かガードルとか言う名の燃料だったな」

ブタバルドの哄笑が響く。
…背中のシリンダー。収められているのは、紛れも無くタナトスだった。
かつてはアンジュが収まった、転生者を動力に動くシリンダー。
確かに本当の『神』が入れば、その出力は多大なものになるだろう。

「貴様…生きて帰れると思うなよ!」

いち早くリカルドが銃を抜き、ギガンテスへ向けて発砲した。
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