イリアが出て行った後、なし崩し的に自由時間となった。
全員が好き勝手やっているようだけど…私のすべきことは、決まっている。
弁解だ。

「こんにゃろォォ…!よくもオレに黙ってやがったな!」
「だから黙ってたわけじゃ…ッ痛い!いひゃい!」
「しかもリカルドは知ってたらしいじゃねえか!どういうことだ、あぁ!?」

凄むスパーダが、私の両頬を掴んで左右に引っ張る。
すごく痛い上、ほとんど口を塞がれてしまっている酷い状況だ。
離れた場所からこちらを見て笑っている、アンジュとリカルドが腹立たしい。

「…まあ、でも。納得っちゃあ納得なんだよな」
「?」

解放された両頬を擦りながら、スパーダを見上げる。
痛かった。これ絶対腫れただろう。ものすごく痛かった。

「お前の術スゲーじゃん?アレって神だったからなんだな」
「うん」
「そんで、やたら可愛いじゃん。これも神だからか」
「うん」
「…否定しろよ。そこは」

呆れ顔で肩を落とすスパーダを笑い飛ばす。
実際、天空城で見た人間型の神々はみんな整った容姿をしていた。
だから否定するほど間違ってないなー、程度には思うんだよね。うん。

「でも、さ。本当に隠してたわけじゃないんだよ」
「…」
「訊かれたら、答えるつもりでいた。嘘つかずに、正直に。全部を」

巧みな天術の扱い。
記憶の場での、異質な反応。
発動しなかった、天空城のセキュリティシステム。

私を『私』とするきっかけは、旅の間に幾つもあった。
誰かに疑われても仕方ないかと思える程度には。
他人のせいにするわけじゃないけど…隠す意図が無かったのは、本当なのだ。

「…まあそのせいで、皆の混乱に拍車をかけちゃったんだけど」
「よく分かってんじゃねぇか。最初から言えっつーの」

拗ねたのか、スパーダは唇を尖らせた。
…そうは言ってもさぁ。さっきのアンジュにも言ったけど。

「私が自己申告したところで、信じたの?私が神だって」
「信じるワケねーだろ」

ほらねー!やっぱりねー!即答だよ!
今度は私が肩を落とし、拗ねる番だった。スパーダは複雑な表情をする私を楽しそうに笑い飛ばした後、近場の椅子にどっかりと腰を下ろす。

「ぶっちゃけ今だって信じきれてねぇよ。でもさ」
「…」
「お前、嘘吐かねぇから。…だから信じる。心配すんな」

スパーダの瞳を見下ろしながら、目頭が熱くなるのを感じた。
…本当、いい奴だなあ。スパーダ。
感情が堰を切ったようにあふれ出し、もう抱きついてやろうかと思った時。

ズバァン、とすごい音がした。

「ほらほら、みんな!ルカちゃまのお帰りよぉ!」

自宅の玄関を蹴り開けたイリアが、にやにやしながら戻ってきた。
その後ろにはルカがいる。
彼は唇を噛んでいたものの、まっすぐに家の中へと足を踏み入れた。

「ルカ兄ちゃーん!」
「お帰り…ルカくん。おかえりなさい!」
「ルカ!おかえりー!」
「遅いんだな、しかし。コーダは待ちくたびれたぞ」

広い家の中に散っていた面々が、次々に集まってきた。
ルカは大勢に囃されて戸惑いながら、ゆっくりと微笑を浮かべる。

「…ただいま。みんな」

泣きそうな彼の微笑みに、皆の安堵が伝わってきた。
みんな安心している。全員がルカを待っていたんだから。
…だけど、まあ。素直にならない者たちも、当然いるわけで。

「ふーんだ!ルカなんて戻ってこなくてよかったのに!」
「全くだぜ!最後の最後で、オレらを信じなかったクセによぉ!」

ギャアギャアと騒ぎ始めるイリアとスパーダ。
彼らに圧倒され、慌てるルカの後ろに誰かがいると、この瞬間気付いた。

「…あれ。シアンじゃん」
「!」

びくりと体を震わせた後、犬たちと共にそろそろと入ってくるシアン。
傷だらけの彼は、珍しく黙り込んでいて大人しかった。

「僕を助けてくれたんだ。天空城から」
「!シアンが…」
「な、なんだよ…クシナダ。なんか文句あんのかよ…」

歩み寄る私から、じりじりと距離を取るシアン。
私は暫く考えた後…自分よりも高い位置にある彼の頭に、手を置いた。
赤い目が瞬かれる。ちょっとかわいい。

「ありがとー、シアン。ルカを助けてくれて」
「え?…あ、う、うん…?」

頬を僅かに赤くして、眉尻を下げるシアン。

「あはは、可愛い。私イヌ触ったの初めてかも」
「なっ…ぼ、ボクはイヌじゃないって言ってるだろぉ!」
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