雪というものを、生まれて初めて見た。

「あのさ、カグヤ。さっきはありがとう」
「?」

寒さに震えながら雪原を行く私たち。
そっと前線を抜けて歩み寄ってきたルカは、嬉しそうにはにかんでいた。
…はて。礼を言われるようなこと、最近しただろうか。

「戦場で、ハスタに会った時。僕のことで怒ってくれてたんでしょ?」
「!…あー」
「僕、凄く嬉しかったんだ。だから…ありがとう」

ハスタ、という単語に先刻を思い出して苦い気分になる。
キュキュの加入もあり、ハスタを倒す自体は難しくなかった。
けれど…また逃げられてしまった。
そもそも倒れた瞬間、本当に戦う元気がなかったのかすら怪しい。

「どういたしまして。律儀だねー、ルカは」
「そ、そうかな?アハハ…」
「うん。真面目すぎ」

照れたように笑っていたルカが、目を見開く。
純粋に褒めただけではないと気付いたらしい。寂しそうに眉尻を下げて、情けない顔で私を見つめてくる。…面白くて笑うと、うつむかれてしまった。

「そんなに傷つかなくていいでしょう?一応褒めてるんだから」
「…褒めと貶しの割合は?」
「七:三かな」
「思ってたより全然多いじゃないかぁ!」

欲しかったツッコミをくれたルカに、再びけらけらと笑う。

「冗談よ、流石に。貶してない。ただ諌めてるだけ、かな」
「諌める…」
「そうそう。真面目すぎると、面白いモノも面白くなくなっちゃうよってこと」

ルカの律儀さと、謙虚さは美点だと思う。だが、同時に欠点だとも思う。
楽しく生きるためには、何事もほどほどに…中庸が大事、ってことだ。

「…でも、今さら性格は変えられないよ」
「でしょうね。だからちょっとずつ…」
「うん。努力する」

頷き、前を見るルカ。
真っ白い景色が広がる雪原は、目が痛くなるけど綺麗だった。

「だから、さ。…それまでは、カグヤたちに頼ることにするよ」
「!」
「僕ね、カグヤのこと尊敬してるんだ。優しくて強くて、すごく、」

恥ずかしそうに言うルカの顔面に、突然謎の白いモノが直撃した。
なす術もなくひっくり返るルカ。
…彼の前には、何かを投げ終えた体制でにやにや笑うスパーダがいる。

「油断大敵だぜ、ルカちゃま!」

どうやら雪の塊を投げつけてきたらしい。
ふらふらと起き上がったルカの顔面から、雪が零れ落ちていく。
…そういえばマムートで聞いたなあ。雪合戦、だっけ。この遊びの名前。
こんなに寒いのに、遊び回るなんて元気あ―……痛い!!

「あ…ゴメン。カグヤ」
「…」
「コンウェイに当てる…つもりだた」
「……」

私の顔面に雪玉を叩きつけてきたキュキュが、目を逸らす。
…痛い。というか、冷たい。冷たすぎて、痛い。
そして私を指差してゲラゲラ笑うイリアとエルマーナが、憎い。

「…普段なら、術を使うけど…いいでしょう。尋常に勝負してあげる」
「!え…ちょっとぉ、カグヤ。何マジギレしてんの?」
「た、ただの遊びや〜ん。そんな怖い顔せんといてぇやあ」

イリアとエルマーナの声を無視し、足元の雪原に片手を突っ込む。
掬いだした雪を、おにぎりの要領で固めていく。
…目標はイリアかエルマーナのどっちかだ。後衛だからってナメないで欲しい。

「食らえっ!おりゃ!」
「キャア、冷たっ!」
「やるなぁ、カグヤ姉ちゃん…ウチも行くでぇ!」
「!わぶっ」
「ヒャハハハ、ルカだっせぇ!直撃してやん、あだっ!!」
「ヘンな帽子、ださーい!」

叫び、笑い、雪を投げながら走り出す私たち。
アンジュとリカルド、コンウェイの年長陣(…と呼ぶのに些か抵抗はあるが)は少し離れた場所でそれを見守っていたものの、大人げの無い面々である。
流れ弾を食らった者から順番に参戦し、結局乱戦と化してしまった。

結果。

「うう…ささ、寒…さむ、い…」
「靴の中まで水が…」
「ウ、ウチは服の中に…へ、へっくし!!」

テノスに着いた時には、全員見事に雪まみれだった。
服が濡れてめちゃくちゃ寒い。完璧にはしゃぎすぎた…反省しよう。

「と、とりあえず…信仰についての聞き込みは、」
「宿でお風呂入ってから、…だね」
「きゅ、キュキュ、さんせーい…ヘックチ!」
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