戦場になったのは、船の甲板だ。 手加減が要らない相手とはいえ、私が全力で術を放ったら確実に転覆する。 …なんだかもどかしいな。イライラする。 「このおっちゃん強いわぁ…さすがは神様やな」 「冗談言ってる場合かよ!マジでやんねーと、本気で脳みそ抜かれんぞ!」 「そんなの、させない!プリズムワルツ!」 前衛四人が全力で斬りかかっても、タナトスの勢いは殺しきれなかった。 相手は神だ。 今までの転生者たちとは、やはり格が違うのだと思い知らされる。 …私も一応神だけど、やっぱり死神相手じゃ戦闘力が段違いだしね。 「生ある者に祝福を!ナース!」 「命を照らす光よ、ハートレスサークル!」 アンジュと二人で回復に努める。 イリアとリカルド、コンウェイは前衛の援護に専念していた。 とても回復に回れる状況ではない…けど。このままだとジリ貧だな。 「…カグヤさん、アンジュさん。一度、一斉に攻撃してみない?」 「!」 「彼、死神だからかな。やっぱり光の術が有効みたいなんだ…どう?」 猛攻の合間を縫って、コンウェイがこちらに駆け寄ってくる。 私とアンジュは思わず顔を見合わせたものの、反対はしなかった。 黙って頷き、即座にタナトスを取り囲む陣形を取る。 「明徴なる光よ 罪深き者に裁きを!」 三人の声が重なる。 攻撃を察したのか、ルカたち前衛が一斉に飛びのいた。 タナトスも逃げようとしたようだけど…残念だが、もう遅い。 「レイ!!」 降り注ぐ光線の雨。 それらは畳み掛けるようにタナトスを襲い、彼の膝をつかせた。 …作戦、大成功だ。今度コンウェイになんか奢ってあげよう。 「ぐっ、うう…!」 「勝負あったな、兄者。…いや、ガードル」 動けないガードルに、リカルドが銃口を突きつける。 仲間達も傷ついてはいるが、私たち回復役には余裕がある。ヒールでも使えば、全員問題なく戦えるようになるだろう。 「クク…いいだろう。さあ殺せ。死んで地上と共にあるのなら、それもまた良し」 「………」 銃を構えていたリカルドが、凍りついたように動かない。 彼は暫くそうしていた後、ゆっくりと銃身を下ろした。そして自分もまだまだ甘いと自嘲する。 「いいのよ、リカルドさん。この方は悪い人ではないわ」 「そうだよ。地上をこんなにも愛しているんだ、きっと僕たちとも分かり合える」 アンジュとルカがそう言うと、ガードルは疲れた顔で鼻を鳴らした。 「哀れみか?貴様らも甘いな…」 ガードルが、握り締めていた鎌を手放そうと指先を震わせる。 …その瞬間だった。 空気を裂く鈍い音が近づいてきている。突然甲板を覆った影に空を仰ぐと、そこには巨大な鉄の塊が浮いていた。緑色のシリンダーを負っているその機械には、グリゴリが搭乗しているようだ。 『ガードル、お前はもう時代遅れなんだよ!今から我らの長は、オズバルド様だ!』 響く哄笑にガードルが歯噛みする。 …オズバルド、か。ハスタも言ってたけど…本当、何者なんだろう。 「枢密院に唆されたか…この、愚か者め!!」 「っ!駄目だ、兄者!!」 リカルドの制止も聞かず、タナトスは甲板の板を蹴る。 そして高く跳び、機械へ憤然と斬りかかった。が、彼の体力は尽きかけている。 ギガンテスというらしい機械が放った熱線に、なす術もなく海へと落下していった。 「兄者…ッ!貴様ァ!!」 海底に沈んだガードルを見て嘲笑うグリゴリに、リカルドが銃口を向ける。 …ヒールかければ戦える、なんて言ったけど。まさか連戦とは。 けれど、そんな軽口を叩く暇などなかった。今まで戦場においては冷静を貫いていたリカルドが、こんなにも憤り、悲しんでいるのだから。 「リカルド、僕たちも手伝うよ。一緒に戦おう」 「…すまない、ミルダ。みんな」 「謝んな、オッサン!あんな鉄クズ、ぶっつぶしてやろうぜ!」 傷の癒えた面々が武器を構える。 空中に浮かぶ機械を見据える彼らの瞳は、壮烈な闘気に燃えていた。 |