今回見えたのは、目の前にいるハスタの前世だったらしい。 『魔槍ゲイボルグ』。 その名は知っている。アスラが手ずからへし折ったという、バルカンの創りし最強の槍。…製造順で言えば、聖剣デュランダルの兄にあたる。 「んーとぉ、どちら様?もしかしてデュランダ…なんとかさん?」 ハスタも、前世で己を殺した者の名は覚えていたらしい。 底冷えするような視線でスパーダを眺め、一瞬だけ笑みを消していた。 ケルム火山は彼らの創造主、バルカンの土地。 ハスタは前世の記憶に惹かれて火山へやってきたらしい。スパーダを同属と茶化したが、当然のように拒絶されていた。 「再会を喜ぶオレ。けれどすぐに悲しみが襲ってくるのでした。 なぜなら前世で敵同士…ならば当然現世でも、殺しあう宿命なのです!」 「宿命…そうだな。バルカンの不始末は、息子のオレがつける」 睨みあうハスタとスパーダ。 スパーダが双剣を抜き、一拍遅れてルカたちも武器を構えた。 …私は丸腰なので、とりあえず後ろに下がる。今更だけど不便だな。折角ガラムに来たわけだし、後で防具くらいは揃えたほうがいいのだろうか。 「さあ行くぜ、殺人鬼!オレたちを生んだバルカンに、この戦いを捧げようじゃねえか!」 「…お前の死に様を、な。行くんだぷー」 長槍を旋回させ、スパーダに斬りかかるハスタ。 流石にこの期に及んで私を狙う真似はしないらしい。弾丸のような速さで槍を振るい、ルカやエルマーナたち前衛をまとめて相手取っていた。 ……流石は『最強の槍』の転生者。以前とは比較にならない強さだ。 「武器のくせに殺し合いを楽しめないなんて、立派な病気だぜ。デ…なんとかさん」 軽いルカとエルマーナを吹き飛ばし、ハスタが続ける。 「リカルド先生のお蔭で、オレは本当のオレに目覚めたんだよ!おかげでブタバルド氏にスカウトされて、毎日毎日流血三昧さァ」 「ブタバルド…もしかして、オズバルドのこと?」 発砲する手を止め、イリアが呟く。 オズバルド…か。転生者研究所で何度か聞いた名前だった。 レグヌム軍の高官、だっけか。そんな奴がなんで… 「カグヤ!余所見しないで!」 「え?…うわっ!」 アンジュの声で我に帰り、振り下ろされた槍を避ける。 …あ、危なかった。すっごい危なかったっ! 「アララ。惜しいっ」 「っ…!あっち行けッ、ウィンドカッター!」 咄嗟に鎌鼬を放ち、全力で後退する。 本当にびっくりした。…余計なこと考えてた私が悪いんだけど。 私の術を避けたハスタに、回復が終わったらしい前衛が斬りかかる。 …ここから先は、少々手間取った。 ハスタはデタラメな動きでこちらを翻弄し、躊躇なく急所を狙ってくる。 けれどそのあたりは数の理が勝った。 互いに互いをフォローする形で戦局を進め…やがてハスタが膝をつく。 「い、一対八って…卑怯じゃねえ?」 火口に追い詰められたハスタ。 負け惜しみとはいえ正論だったが、同調するものは誰もいなかった。 「こいつとの縁も今日で終わりだ。…リカルド、トドメを頼む」 「仰せつかった。ハスタ、動くなよ」 銃を構えるリカルド。 ハスタは目に見えてそれに怯え(演技の可能性大だが)、自らの槍を放り投げた。 なんでもするから助けてくれ、らしい。嘘くせえ。 「ねえねえ、思いとどまってよぉ先生!極秘情報、教えるからさあ!」 「…」 「そこの…服と靴のコーディネイトが微妙な坊や?ちょっくら耳貸して。返すから」 ハスタが指差したのは、比較的あまり喋らなかったルカだった。 突然の名差しに戸惑い反射的に身を乗り出した彼を、スパーダが鋭い声で制す。 …その時だった。ハスタの奥に、捨てたはずの槍が見えたのは。 「ほら、聞いてくれ。肉に刃が食い込む音を」 槍が飛来し、まるで吸い込まれるようにルカの腹部へ食い込む。 刺突の衝撃で吹き飛ぶルカ。 ……彼の腹から溢れる血は、夥しい量だった。 「…あ……」 ……ルカの顔から、だんだんと血の気が失せていく。 …嘘、でしょう。何これ。死んじゃうの、ルカ。こんなところで…! 「る、ルカ!ルカ、しっかりして!」 「酷い怪我…!カグヤ、落ち着いて。早く治癒術を!」 逃げるハスタなんか、目に入らなかった。 アンジュが包帯を取り出して応急処置を始めていく。他のみんなも、各々の役割を与えられて動いているようだった。…けど、正直…何も耳に入らない。 「ルカ兄ちゃん…」 「ラルモ、まだ泣くな!街へ運ぶ、急げ!!」 「…」 「カグヤはセレーナと交代しながら、治癒術を絶やすな。分かったな!」 リカルドの指示に、半ば無意識で頷く。 …私の回復術じゃ、ここまでの外傷は治せない。止血すらできない。 ……嫌だ。ルカが死ぬなんて、そんなの。絶対に。 「あんな思いは、もう二度と…したくない…」 「…カグヤ?」 |