火山の中は、当然のように暑かった。 「ああー、本当あっつい!おたんこルカ!扇いでよぉ、ホラ!」 「熱風がかき回されるだけだと思うけど…」 「口答えすんじゃないわよ!!」 あまりの暑さに、狂い出すもの数名。 気持ちは分かる…けど、幸い私は気温の変化に強かった。 汗こそ出るものの、狂乱するには至らない。 この中では多分、二番目くらいに元気なんじゃないかな。 「…っていうか、コンウェイおかしくない?なんで汗かいてないの?」 「元々汗をかかない体質なんだ。ボク」 「いや体質とか、そういうんじゃなくてさ…」 火山なのに汗かかないって、それ病院行ったほうがいいんじゃないのか。 あまりに涼しげなコンウェイにそう言う勇気はなく、口を噤む。 …と、その時。誰よりも錯乱しているらしい、アンジュの絶叫が聞こえた。 「うう…ああ、あああ!暑い!熱い篤い厚いアツイあついぃいいっ!」 「あ、アンジュ…」 「リカルドさん!早くわたしを暑さから護衛してください!わたしは依頼人なんですよっ!?」 虚ろな目をしたアンジュがリカルドに掴みかかっている。 完璧に正気は無いようだ。比較的余裕のありそうなリカルドが宥めているものの、彼女の錯乱は留まるところを知らない。…あの服、暑そうだもんな。 「姉ちゃん。これを期に、少しはダイエットしたほうがエエんとちゃう?」 「うわっ、エルのお馬鹿!それ地雷…ッ」 エルマーナの軽口。正気に帰るイリア。 アンジュは雷に打たれたように喚くのを止め、淀んだ目で振り返った。 「…エル。そこに座りなさい?」 「か、堪忍してぇな、アンジュ姉ちゃん。ここの地面、めっさ熱…」 「座りなさい」 有無を言わせぬ語調のアンジュ。 エルマーナはストンと着席し、説教を受けながら項垂れた。 …自業自得だ。可哀想だけど、助けてあげる気にはならない。 「…ねえカグヤ、コンウェイ。ちょっといい?」 「?」 アンジュから離れた位置に立っていた私たちに、ルカが声をかけてきた。 彼の視線は、先頭でぼんやりと立つスパーダに向けられている。 「スパーダの様子がおかしいんだ。どうしてだと思う?」 「スパーダの?さあ…お腹すいてるとか?」 「ああ。そんなところじゃないかな」 適当に返した私と、それに同調するコンウェイ。 ルカは情けない顔をしてがっくりと肩を落とし、「そのネタはもういいよ」と呟く。何がなんだか分からないが、私の返事が不満だったようだ。 ルカがスパーダに歩み寄り、話しかける。 が、はぐらかされたようだ。スパーダはルカをあしらいながら、いまだに説教を続けるアンジュを諌めに行く。…エルマーナは既に撃沈していた。 「…そうね。今日はこのへんにしておきましょう」 「うひー、エラい目に遭うた…」 再び頂上へ向けた歩き出す一行。 頂上へ辿りついたのは、街を出てから一時間ほど経った頃だ。 ボロっちい祭壇と、記憶の場。 そしてその前に佇む、赤い槍を担いだ殺人鬼の姿が見える。 「コ ン ニ チ ハ。ココハ ケルム火山 デス」 何が愉しいのか、ハスタはにやにやと笑っている。 …というよりも、私はこの人の笑顔以外の顔を見たことが無い。 「貴様、なんの冗談だ?死に損なっておかしくなったか」 「やあやあこの通り、全力で普通でゴザイマスとも。ところでリカルド先生、後ろの方々はご家族?確かに目元がソックリですピョロよ?」 ハスタの妄言に、不覚ながらも噴き出してしまった。 「ソックリだって、リカルド先生。お父さんって呼ぶ?」 「やめろ」 「おっちゃんがオトンなら、アンジュ姉ちゃんがオカンやなあ」 「ラルモ、乗らなくていい」 エルマーナと顔を見合わせ、くすくすと笑う。 少なくとも私は楽しかったが、イリアは気に食わなかったらしい。 ハスタを罵るついでのように怒られてしまった。…少しだけ反省しよう。 「オイラの一次欲求はぁ、食欲・海水浴・殺人欲!というワケで、全部満たしていいデスか?いいデスねえっ?」 …一つ、『欲求』じゃない気がするけど。 そういったツッコミは、彼に対しては野暮なのだろう。キリも無いことだし、気に留めるの自体をやめたほうがいいのかもしれない。癪だけど。 「ならばその口、永久に閉ざして…」 「…あーらよ、っとぉ!!」 「!?」 リカルドの言葉を遮り、ハスタが跳ぶ。 私たちに向けて、ではない。後方にだ。…そして、彼の後ろにあったのは。 「あいつ、記憶の場に…!」 「キュピーン!!」 美しく屹立し、高らかに言うハスタ。 その声に呼応したのだろうか。その瞬間に記憶の場が、目映い光を放った。 |