長い船旅を経て、やっと着いた西の国。

降り立った港はかなりの活気があった。
エルマーナが周囲をきょろきょろと見渡し、何かを言おうと口を開く…前に、リカルドが声を出した。十中八九食べ物の話だったろうから、正解だろう。

「ここはガラム港。街はこの先、カリュプス鉱山を抜けた向こうにある」
「うげぇ。また山道かいな」
「ただの山道ではない。鉱山の坑道を利用したトンネルだ」

トンネル、か。
じゃあただ山を登るのよりはずっと楽だろう。多分。

「じゃあ行こ。港には用事ないんでしょ?」
「うん。ガラムに行って、また情報を集めないとね」

ルカの先導で港を出る。
カリュプス鉱山へはすぐに辿りついた。鉱山の中はあまり整備されていないようで、ところどころ落盤している。道なりまっすぐ、とは行かなかった。
そして。

「デカイ岩だなあ…並みの力じゃ壊せねえぞ」
「ふふん。何言うとるん、スパーダ兄ちゃん。ここはウチの出番やで」
「お?まさかヴリトラの力…で…」

岩を目の前に、振り返ったスパーダが凍りつく。
エルマーナが抱えているのは爆弾だった。それも、かなりの量の。
「ぎゃああああああ!」
スパーダが叫び、全力で私たちの輪の中へ駆け込んでくる。
…私たちはとっくに避難していたというのに。間の悪い人だ。

「いっくでえ!爆発やあ!」

エルマーナが爆弾を岩に投げつけ、きゃあきゃあ言いながら私たちに駆け寄ってくる。…直後、鳴り響く爆音。大きな岩は跡形もなく吹き飛んでいた。

「…天井、大丈夫かな。この勢いで。一緒にぶっ飛んだり…」
「あたし、生き埋めだけは勘弁ね」
「ボクも」
「僕だって嫌だよぉ…」

そんなこんなで、気の休まらない一時間を送ったのち。
奇跡的に全員が生きて、ガラムの街に到着することが出来た。
…命の大切さを思い知ったよ。うん。ものすごく怖かった。

「ガラムは鉱山資源が豊富だから、鍛冶師の集まる街でもある。
 優秀な鍛冶師は武芸者を招く。職人の街であると同時に、修行地として有名だ」

「へえ、修行地ねえ。そりゃちょっと楽しみだな」

街の入り口で、恒例のリカルドによる郷土説明だ。
今回はスパーダが強い関心を示し、うんうんと頷いている。

「その過程で火山が神格化されているの。あのケルム火山では、特に鍛冶の神バルカンが信仰の対象になってるわ」
「……バルカン…」

バルカン、か。聞いたことある…ような。ないような。

「じゃあ記憶の場があるなら、ケルム火山の中ってこと?」
「ええ。そういうこと」

若干脱線し始めた話題を元に戻す。
アンジュは私の言葉に頷いた後、少し眉をひそめて周囲を見渡した。
…曰く、「街の様子が変」らしい。
確かに…なんだろう。極端に人の姿が少ないような気はする。

とにかく街に行こう、というルカの提案で街に入った。

…が、変な雰囲気は強まっていく一方だ。
全員で不穏な空気を感じながら、街の最深部…ケルム火山に向かう。
そこには神妙な顔の門番がぼんやりと立っていたが、私たちが近づいた途端、慌てて通行を遮ってきた。

「んだよ、オッサン。通してくれよ」
「駄目だ駄目だ。お前達は旅行者だな?この先は観光地じゃないぞ」
「知ってるわよ。いいから通しなさいよ」
「駄目だと言っているだろう。それに今この上にはな、あの殺人鬼ハスタ・エクステルミが居座ってるんだ」

ハスタ。
その名を聞いたイリアの顔が引き攣り、リカルドが舌打ちをした。
どうやら相当嫌いらしい。…いや、私も好きじゃないけどさ。怖いし。

「いいから、街に戻りなさい。早く」

門番になだめられ、仕方なしに街へと引き返した。
…さっきからイリアの顔がヤバイ。これはちょっとお茶の間に流せない。

「あんのデタラメ野郎…!なんでこんなとこにいやがるのよ!」
「本当にね。今回ばかりは偶然だと思うけど…」
「ハア。どうやら、もう一度死に目に遭わせる必要がありそうだな」

イリアとリカルドのやる気が尋常じゃない。
この中で唯一ハスタの顔を知らないエルマーナは、不思議そうに二人を見上げていた。そらよっぽどキモイんやなあ、と小さく呟いている。

「またハスタか…でもオレ、あいつ初めて会った気がしねーんだよな」
「え。そうなの?」
「ああ…なんでだろうな」

殺意を迸らせることなく、スパーダが顔をしかめる。
…この反応。前世の縁、かな。でもハスタって転生者なんだっけ?

「それで、どうするの?火山に入るんでしょ?」
「…ううん。じゃあこういうのはどうかしら」

話題を正したコンウェイに、アンジュが案をあげる。

「殺人鬼を追い出すから、わたしたちを中に入れてって頼むの。
 でも、目的はあくまで"記憶の場"。ハスタさんは二の次ってことで」

「…随分香ばしい意見だね」

「あらカグヤ。そんなことないわよ?」

たおやかに微笑むアンジュ。
曰く、誰も手に負えない殺人鬼なら、自分たちが放置しても文句は言われないだろう…とのことだ。充分すぎるほどに香ばしい。さすがはアンジュと感心した。

「じゃあ早速、門番さんに話してみよう」

乾いた笑いを浮かべながら、優等生ルカが話を締めくくった。
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