久々に訪れたアシハラの街は、また一段と狭くなっていた。 「やあっと陸なのね。あー、キモチワルイ…」 「船は揺れるんだな、しかし。コーダは疲れたぞ、しかし」 港へ降りたのは、真っ青な顔をしたイリアが最後だった。 彼女に比べれば幾分マシになったらしいルカが、目新しそうにアシハラの街を見渡す。そして思い出したように、私へと振り返ってきた。 「カグヤはここの出身なんだよね?信仰のこと、何か知らない?」 「え…?」 思わぬ質問に、間抜けな声が出てしまった。 「出身…って、私そんなこと言ったっけ?」 「ええ?言ったじゃない。鍾乳洞で」 「……」 きょとんとするルカ。 思い出せないけれど、この様子からすると私が忘れているだけらしい。 仕方が無いのでゆっくりと首を振り、よく知らないと答えた。 ……嫌だな。早く次の国に行きたい。 「んじゃ、また聞き込みかぁ。コイントスでいいよな」 返事を待たずにスパーダがコインを弾く。 結果はルカとイリア、エルマーナとスパーダ、アンジュとリカルド。 私はコンウェイとコーダと三人(?)だ。 待ち合わせ場所と時間と決めたあと、各々の場所に散っていく。 「海ばっかだなー、しかし。この街では何がウマイんだ?」 「…目的がズレてるよ、コーダ」 相変わらずなコーダに、コンウェイが肩をすくめる。 このままでは動けそうにない。 私はコーダを摘み上げて、とりあえず片手に抱えてみた。 ……小動物に嫌がられないっていうのは、結構嬉しかったりする。 「よし。じゃあ行こうか!」 「機嫌いいね、カグヤさん……うん。分かったよ」 揃って街に出て、聞き込みを続ける。 信仰についてを尋ねると、人々は揃って『王墓』の話をしてくれた。 人は死後神になり、祀られるという風習の話だ。 「…これ以上の収穫はなさそうだね」 「じゃあ戻ろう。スグに戻ろう。迅速に戻ろう」 「?」 「カグヤ!苦しい!苦しいんだな、しかしッ…!」 いつの間にか手に力が篭っていたらしい。 抱いていたコーダが悲鳴をあげたので、慌てて力を抜いた。 「あんまり居たくないの、この国。だから行こう」 「…そう。分かった。じゃあ港に戻ろう」 「…」 コンウェイから目を逸らし、早々に港へ向かう。 ……そうだ。この国にはあまり居たくない。嫌なことを思い出すから。 「ああ、お帰りなさい。二人とも」 港にはルカ・イリア以外の全員が揃っていた。 エルマーナが実に幸せそうに饅頭を頬張っている。どうやら奢らされたらしいスパーダが、複雑そうな表情でその隣に立っていた。 「ミルダとアニーミが遅いな。何をしているのやら」 「ヘヘ、いーじゃねえかよ。折角イカサマまでしたんだ、ちったぁウマくやってくんねーと困…」 「…スパーダくん?イカサマが何ですって?聞き捨てならないわね…」 「うげえ!やばっ…!」 くどくどと説教を始めるアンジュと、悶絶するスパーダ。 ルカとイリアが戻ったのは、ちょうどスパーダが撃沈した頃だった。 イリアの機嫌が随分と悪い。 ルカが疲れたような顔をしているから、きっと何かあったのだろう。 「それで…何か見つかった?」 「…この国の権力者は、死ぬと神として祀られる風習があるらしいよ」 懸命に話題を自分から逸らそうとするルカ。 微笑むコンウェイがそれに応え、『王墓』について説明した。 天上信仰の証拠、他国の神殿と同意義の場所だと。 「わたしたちは、それともう一つ。『豊穣の祠』について聞きました」 「…ッ!」 アンジュの切り出した話題に、私の心臓が跳ねる。 「この島には独自の女神がいて、彼女を祀っていた祠があるそうです。 街からはだいぶ遠いらしいんだけど、手がかりくらいはありそ…」 …黙って聞き続けるのは、ここが限界だった。 そんなものは無い、と今までにないくらいに大きな声で説明を遮る。 アンジュが目を瞬いた。 …アンジュだけじゃない。ルカもイリアも、不思議そうに私を見つめていた。 「い、いや…その。私…行ったことあるの。その祠」 「!え…」 「でも、なかったから!変なもの。だから行かなくていい…と思う」 嘘ではない。…けど、本当でもない。 一同は忌々しげに唇を噛む私を呆然とした様子で見ていたが、とりあえず納得はしてくれたらしい。『王墓で何にも手がかりがなかったら、念のために行ってみよう』ということで、話はまとまってくれた。 ……行きたくない…けど。反対する理由が見つからなかった。 「王墓は街の北だって。行ってみよう」 ルカの先導で街を出る。 …途中すれ違った老人が、やけに私を見ていたのが気になった。 |