レグヌムに到着し、数十分。
私たちの中では、情報集めが恒例化しつつあった。
……んだけど、なぁ。

「ねえ、アンジュ?食べるんならさっさと食べようよ」
「!だ、ダメよ!ホットドッグなんて、カロリー高そうなものっ…」
「でも、お店の人困ってるし…」

呆然と屋台を見つめていたアンジュが、はっと我に帰る。
彼女に見つめられた屋台の主人は、引き攣った苦笑を浮かべていた。

「…なによ、アンジュ。まだやってたの?」

道具屋での聞き込みを終えたらしいイリアが戻ってくる。
そして私とアンジュの顔を見比べた後、屋台へと視線を移した。
苦笑する主人を見つめたイリアは、あっ、と驚いた声を出す。

「そういえば、あたしがルカに貰ったホットドッグ、ここのだったわね」
「…そうなの?」
「うん。超辛かったけど、おいしかった」

辛かった?
妙な言い回しを疑問に思ったものの、"おいしかった"という感想は意図せずアンジュの背中を押したらしい。うーうーと唸った挙句、結局三つお買い上げだ。

「じゃあ、イリアにカグヤ。一緒に食べましょうか」
「本当?アンジュったら太っ腹ぁ!」
「!!バッ…」

ホットドッグを受け取ったイリアが嬉々とした言った言葉に、戦慄する。
…この子、アンジュの地雷を未だに理解していないのだろうか。

「イリア?……だれの腹が、太いって?」
「は?い、嫌ですわぁアンジュさん。そういう意味じゃ…っ」

アンジュに詰め寄られたイリア。
彼女の助けを求めるような顔は無視しておいた。自業自得である。

おいしいなー、これ。
がみがみと聞こえる説教を聞き流しながらホットドッグに舌鼓を打っていたところ、周囲が騒がしいことに気付いた。駆け回る赤い軍服も見える。
…えっと、あっちは住宅区域だっけ。担当者は、確か。

「あっちって、ルカくんとコンウェイさんの担当よね?」
「…ルカのやつ、まさか家に帰ったのっ!?」

アンジュを振り切って叫んだイリアに、目を見開いてしまった。

「待とうよ、イリア。ルカは家には戻らないって、ちゃんと誓って…」
「そんなの分からないじゃない!!」

必要以上に大きな声での否定だった。
その声のせいか、私たちも人目を引きつつある。
私はアンジュと頷きあってからイリアをなだめ、工業区へ向かった。

目的地はマンホールである。
地元民だというスパーダが『絶対見つからない』と太鼓判を捺した隠れ家で、情報収集ののちに集合場所として決めておいた場所だった。

「ちょっと、ルカ!いるの!?」

真っ先に梯子を下って下水道に降り立ったイリアが叫ぶ。
次にアンジュが梯子を降りた。私は最後に、蓋を閉めてから降りていく。

…薄暗い下水道の奥には、イリアに詰め寄られるルカの姿が見えた。

「あんた、実家に顔出したわけ?みんなが迷惑になるとか考えないの?」
「…イリアさん、それはないんじゃないかな。彼とボクが住宅区を回るのは、コイントスで決まったことだろう」

沈黙するルカを庇うコンウェイ。
けどイリアの苛立ちは収まらないらしい。無遠慮に張り上げられる声が、狭い下水道の中で反響していた。

「まあまあ、終わったこと気にしても仕方ないじゃない。落ち着こうよ」
「そうや。自分、声大きすぎやねん。耳キーンなっとる」
「…?」

唐突に挟まれた知らない声に驚き、首を傾げる。
コンウェイに隠れて見えなかったが、その奥に女の子がいた。
…彼女の顔を見た瞬間、息が止まるかと思った。

「誰よ、あんた?」
「自分こそ誰やっちゅーねん」

冗談めかして笑う彼女。
名前も知らない女の子ではあったものの、彼女の前世は一瞬でわかった。

ヴリトラ。
アスラの養母である神龍。私の…クシナダの、大切な友人。
…まさか、彼女まで転生していて、しかもまた会えるなんて。

「……」
「カグヤ?どうしたの、早く行きましょう?」

ひとり立ち止まった私をアンジュが気遣ってくれる。
気付けば、他の面々は揃って姿を消していた。
ヴリトラの…あの子の先導で、どこぞの部屋に入っていったらしい。

「…そうだね。行こうか」
「?ええ」

不思議そうな顔をするアンジュを連れ、手近な扉を押し開ける。
中はちょっとした寝室のようだった。
ベッドもソファもあるし、洗濯物が干してある。生活臭は充分だ。

「兵士に追われとるんなら、ウチが匿っといたるわ。寛いでぇな」
「あ、あなたまさか。こんなところで生活してるのっ?」

慣れたふうに部屋を整えるヴリトラと、目を剥くアンジュ。
ヴリトラ曰く、この場は"孤児院"のようなものらしい。
彼女の「食べ物の入手経路は喋れない」の言葉に、ルカたちは全てを悟ったようだった。…そういえば商店街で盗人の話を聞いた気がする。

「ウチはエルマーナ・ラルモいうねん。よろしゅうな」

色々と悲惨な人生を送っているらしい彼女の笑顔は、それでも明るい。

エルマーナ…か。
どうしてもヴリトラと重ねてしまうけれど、この際彼女のことは忘れよう。
でも…まさか、アスラやイナンナとヴリトラが、転生して尚も巡り合うなんて。
やっぱりこの旅は、『私の目的』に辿り着けるものなのだろうか。

「………」
スパーダとリカルドが合流し、エルマーナと何事かの交渉をしている間、私は一言も喋らなかった。
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