ハルトマンの家で、情報交換の流れになった。

まずはリカルド。
アンジュ誘拐の任務は、テノスの貴族・アルベールからのものらしい。
理由は転生者だから…らしいけど。どうだろうか。

次にルカやイリア。
教団の大主天・マティウスが転生者を捜していて、イリアの故郷が襲撃されたとのこと。転生者を捜す理由…は、前に聞いたな。"創世力"だ。

「そういえば、アルベールは俺が転生者と分かると真っ先に聞いてきたな。
 創世力を知っているかと。…おいミルダ、創世力とは何なのだ?」

「わからない…けど、知ってる。思い出せない…」
「あたしも知ってる。でも……痛ッ」

考え込んでいたイリアが、突然頭を抱えだした。
創生力について、突然思い出そうとしたからだろう。
ルカもイリアも…というより、アスラとイナンナは、創世力について熟知していたはずだから。その情報量たるや、私の比ではない…と思う。たぶん。

傍に控えていたハルトマンが、イリアに水の入ったグラスを差し出す。
と、その瞬間だった。
私の目の前に坐っていたアンジュが、椅子を蹴るようにして立ち上がったのは。

「創世力!天上崩壊の原因!大変、止めないとっ!」

……は?
全員が目を丸くする。何かを問おうと口を開く。
けれど、叫んだ直後のアンジュは憑き物が落ちたような顔できょとんとしていた。
自分の放った言葉の意味を、まるで計りかねるように。

「…創世力が、天上崩壊の原因。やっぱり、そう…なのかな」
「カグヤ、何か知ってるの?」
「…」

黙って首を振った。私は何も知らない。
だって私は、天上が崩壊するあの瞬間も、薄暗い籠の中にいたんだから。
……だから、…何も知らない。

「カグヤ様」
「!…あ、はい?」

背後からの呼びかけに、はっと我に帰った。
振り返ると、水差しを持ったハルトマンが立っている。

「ご気分が優れませぬか?お水のお代わりをどうぞ」
「あ…ありがとうございます」

見渡せば、食卓についていた仲間たちは誰もいなかった。
随分と長い間ぼーっとしていたらしい。遠くから楽しげなスパーダと、悲しげなルカの声が聞こえていた。…疲れてるんじゃなかったのか、あの子たち。

ハルトマンの残してくれたグラスをしばし見つめ、中の水を一気に飲み干す。
…考えていても仕方がない。
私は手近にいたアンジュに声をかけてから、夜の街へと繰り出した。

「……あ」
「あ」

本当に偶然だった。
宿の真横、街灯の光が届かないような路地で、コンウェイを発見したのは。

「何してるの?こんなところで」
「別になにもしてないよ。誘われただけ」
「誘われた?」

しゃがみこんでいたコンウェイが立ち上がる。と、その足元に白いものが見えた。よく見るとごろんごろん動いている。猫のようだった。

「この街は猫が多いね。お蔭でいい迷惑だ」
「…その割には幸せそうだけど?」
「冗談。ボクは猫に好かれやすいみたいでね、歩くたびに寄られて大変だよ」

大仰に肩をすくめてみせるコンウェイだけど、全く嫌そうでないのは言うまでもない。…だいたいマイ猫じゃらしを持ってる人間が猫嫌いなわけないだろうに。

「でもちょっと羨ましいな。私は動物に好かれないから」
「へえ。そうなの?」

コンウェイが意外そうに見上げてくる。
私は肯き、彼に歩み寄ってみた。途端に身を引き、毛を逆立てる白猫。
予想通りの反応に笑ってしまったものの、やはり寂しい。

「コーダはご飯分けただけで懐いてくれたんだけどねぇ」
「彼は例外だと思うけどな」
「それもそうね」

今にも逃げ出しそうな猫に苦笑して、立ち止まる。
白猫は私を警戒したまま、コンウェイに擦り寄っていた。

「カグヤさんは、どうして外へ?」

ぶつけられた純粋な疑問に、どう答えたものかと思案する。

「…そうだな。頭を冷やしたかったんだ」
「ふうん…知恵熱?」
「そうかもね。考え事なんてあんまりしないから」

からかうような顔で見下ろしてくるコンウェイを受け流す。
彼は私が怒らなかったことが少し不満そうだったが、顔には出さなかった。
代わりに再びしゃがみこんで、足元に絡んでいた白猫を抱え上げる。
そして。

「はい」
「?」
「触ってごらん。結構すっきりするよ」

両手で拾い上げた白猫を、私の眼前につきつけてきた。
思わず目を瞬く。
こんなに近くで猫を見るのは初めてだった。猫はあからさまに嫌がり、身をよじっているものの、コンウェイの「じっとしてて」の声でぴたりと止まった。何故だ。

「え、えーと…触るって、どこを?」
「どこでも。頭をなでたり、首の下をなでたり」
「…」

コンウェイの急かすような視線。猫の胡乱な視線。
板ばさみになった気分のまま固唾を飲み、そろそろと指を伸ばしてみる。
……初めて触れた猫は、想像以上に温かかった。

「……可愛いね。嫌がってるけど」
「でも気持ち良さそうだよ。嫌がってるけど」

数秒後に地面に降ろされた猫は、しばらく私を見つめ、目を逸らし。
どこからともなく持ってきた"ふな"を二匹地面に置いて、立ち去っていった。

「…なんで、ふな?」
「お礼じゃないのかな。ボクもさっきサバを貰ったよ」
「そっか…明日は漁師鍋だね」

調理はイリアかアンジュにやってもらおう。
そう続けるとコンウェイは何かを言いたげな顔をしたが、黙殺した。
…私が料理なんかできるわけないじゃないか。

「じゃあ帰ろうか。行こう、カグヤさん」

コンウェイと一緒に夜の街を歩く。
途中、人ごみに紛れて歩くチトセの姿を見たような気がした。
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