お疲れ様でしたと頭を下げ、ディセンダーが去っていく。
その楽しげな背中を見送った私は、私と同様に甲板に残された、先ほどまでの同行者に目を向けました。

「私に、あなた。ナナリーにあの人。バランス悪いと思ってましたけど、すんなり終わりましたね」
「そうだな。あいつの戦闘技術には目を見張るものがある」

淡々と賛辞を呈するリカルド・ソルダート。
彼を含めた先述のメンバーは、先ほどまでルバーブ連山での討伐依頼をこなしており、今しがた解散したばかり。ナナリーは既に医務室に帰ってしまいましたので、甲板には私達二人しかいません。

「今日はモンクでしたね。前回は魔術師で…その前は」
「確か、狩人だ。初めは節操なく武器を変えるやつだと思っていたが、全てを常人以上に使いこなしている。世界樹の守り手は伊達ではないな」

珍しく饒舌なリカルドに、少々驚きました。
「ずいぶん褒めるんですね。珍しい」
純粋な驚きとほんの少しの皮肉を込めて言い放つと、リカルドは私を見下ろして、ふと口元を歪ませます。笑った…みたいだけど、なんか勘に障りますね。

「俺とて、褒めるときは褒めるさ。お前だって、今日の術はよかったぞ」

……鳥肌が立ちました。

「私が悪かったです。ごめんなさい」
「何も悪くなぞない。特にガルーダ相手に放ったシャドウエッジが、」
「やめてください」

うんざりした溜息をひとつついて、船内へと足を進めます。
一拍遅れてついてくる足音。
二人で扉を潜ると、カウンターで控えていたアンジュが声をかけてきました。

「おかえりなさい、リカルドさん。ユノさん。お疲れ様です」
「ああ」
「ただいま帰りました。アンジュ」

意味ありげに微笑む彼女に近寄り、報酬を受け取ります。
簡単な依頼だったのでそれなりの報酬でしたが、利益を得るために依頼を受けているわけでもないので気になりませんでした。
……気になるのは、アンジュの微笑みのほう、ですかね。

「…なんですか?」
「いいえ。あの子がね、リカルドさんとユノさんはすごく息が合ってたっていうものだから」

あの子。とはいわずもがな、ディセンダー。
背後で順番待ちをしていたリカルドを振り返り、まじまじと顔を凝視します。
…息が合ってた?本気ですか。

「二人が後ろにいるとすごく安心できるんですって。いつもありがとうございます」
「……」
「言われずとも、報酬ぶんは働くさ。心配には及ばない」

アンジュの言葉を見事にスルーし、ついでに私もスルーし、報酬を受け取って踵を返すリカルド。
彼は去り際に一度だけ振り返って、こう続けました。

「今日はなかなか有意義だった。必要になったらいつでも呼べ」

……見えなくなった黒コート。
呆然とそれを見送った私に、アンジュはなおも微笑みかけ、ガルドとグミの入った麻袋をカウンター上に置きました。

「それじゃあ、ユノさん。次回もまた、宜しくお願いしますね」

気のせいでしょうか。
麻袋の下に、白い紙切れが見えます。"依頼人:ルーク"の字も見えます。

…まだ、働くのか。
報酬はいいみたいですが、そんなものは二の次です。
なにせ私はリカルドのように、仕事熱心にはなれないんですから。

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