暑苦しい三人組を発見しました。
……いえ、それは構わないんです。そっと横を通り抜けて、奇麗に記憶を消去して、見なかったことにすればいいんだけなんですから。問題は、

「……すみません。退いてください」
「「「!!」」」

問題は、彼らが廊下の真ん前に立ち尽くしている、という点にあります。
通れない。全然、通れない。
やっと任務を終えて、自室に戻って自堕落に眠ろうと思ってたのに。

「あ、ああ…ユノ。おかえり…」
「お疲れ…」
「にに、任務、大変だった…?」

上からシング、ロイド、カイル。
我らがアドリビトムを代表する馬鹿三に…げふんげふん、仲良し三人です。

「ええまあ、そこそこ大変でした。退いてください」
「ご、ごめ…ちょ、ムリ」
「はぁ?」

震える声で(というか震えてるんですけど)呟いたカイル。
見れば、残りの二人も同様に震えていました。
何がなんだかサッパリ分からない。気でも触れたのか…と、思った時。

締め切られた『男子便所』の扉が、ふと目に入りました。

……まさか。

「一歩でも動いたらヤバイ、とか。そういう…」
「………」

否定しろよ。
虚勢でもウソでもいいから、否定はしろよ。

思わず表情が引き攣り、そっと彼らから距離を取ってしまいます。
三人は…特にロイドは、それにいたく傷ついたようでした。
ガタガタと震えながらゆっくりと、廊下の道を空けようと身を動かしています。

「………ウッ!」
「ろ、ロイドぉ!耐えて!もうちょっとだから!」
「ちょッ…分かったからやめてください、動かなくていいです!」

慌ててロイドを制止し、動きを止めさせます。
あ、危なかった。何がとは言わないけど、危なかった!

「…けどまあ、気持ちは分かりますよ。個室の数、少ないですもんね」
「女子トイレも少ないの?」
「そうですねぇ」

手持ち無沙汰になってしまった私は、とりあえず女子トイレを覗いてみました。
個室は奇麗に三つ空いていました。…どうしようかな。
誰もいないみたいですし、私が女性が入らないよう見張っていれば、なんとかなりそうなものですが…果たしてこの三人が承諾するでしょうか。
……というか、私がそこまで尽くしてやる理由がありませんね。

「男子トイレよりは多いんじゃないですか?よく分かりませんけど」
「そ、そりゃあ…女の子だもんね」

シングが実に適当な返事をした、その瞬間。
締め切られていた扉の奥から、手洗い用の蛇口を捻る音が聞こえました。
ぱっと顔色を変える三人。
彼らは自分たちを苦しめた者が扉を開け、出てくるのを静かに待っています。

……私、なんでここにいるんだろう。

「!…む?」
「「!!?」」

扉を開けて出てきたのは、見慣れた長躯でした。
長い髪。立派な髭。ヴァン・グランツ、その人です。

「あ、あなた…だったんですか。ヴァン」
「ユノ。お前、こんなところで何を…」

不思議そうに目を眇めるヴァン。
彼の後ろでは、既に臨界点を突破しかけているらしい三人がジャンケンをしていました。仲良きことは美しき哉。…じゃなくて、急いだほうがいいと思うけれど。

「はいはい!ごめんなさいよぉ〜、っと」

三人が仲良くジャンケンしている脇をすり抜け、レイヴンがやってきました。
彼は当然、一目散に男子便所へと消えていきます。
取り残された三人が、絶望的な声をあげました。

「……ヴァン。中にいるのが誰か、知ってますか?」
「レイヴン殿にユージーン殿、そしてリカルド殿だったかな」
「見事におっさん尽くしですね……三人とも!」

葬式のような顔をした三人へ声をかけると、三つの死相がこちらを向きました。
なんと恐ろしい。リターナーもびっくりですよ。

「女子トイレへどうぞ。ニンゲンの尊厳を失うよりは、ずっとマシです」
「「………」」
「大丈夫ですよ。私、見張っててあげますし」
「「………」」
「…ああっ!リアラとコハクとコレットがこっちに来てる!」
「「お言葉に甘えますっ、ユノお姉さま!!」」

勿論ウソですが、効果は覿面でした。
三人は風よりも早く女子トイレへと飛び込み、沈黙します。
取り残された私は、ヴァンと共に浅い溜息をつきました。

「…馬鹿」
「そう言ってやるな。微笑ましい範疇ではないか」

笑いながら、廊下の壁へ背を預けるヴァン。
どうやら私と共に"見張り役"を務める腹づもりのようでした。

…微笑ましい、ねえ。

「というか、面倒くさいです。全員」
「……」

否定はされませんでした。結構正直ですよね、この人。
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