ライマ国騎士団における私の仕事は、ヴァンの補佐。
つまり、実質はルーク・アッシュ両人に対する護衛になります。

貴族の出でもない私がそこまでの重要ポストにつけたのは、私が以前"導師"と呼ばれる重要人物の護衛任務をこなしたという実績が大きく作用しているのでしょうが、なんというか。有難迷惑とはこのことです。

「……おい、ユノ。俺の話聞いてんのか!?」
「うっさいですねー。聞いてますよ」
「耳塞いでんじゃねえ!」

歯噛みしながら詰め寄ってくるのは、王位継承者の兄のほう。
彼は苦手です。うるさいし、言動が唐突すぎて理解できませんから。

「ていうか、何なんですかいきなり?熱でもあるんですか」
「ねーよ!だから、その…アッシュにできて俺にできないっつーのが嫌なんだ」

ひとしきり騒いだルークは、恥ずかしそうに目線を逸らします。
そして後頭部をがりがりと掻いたのち、息を吸い。改まって私に向き直ります。

「ユノ。俺に、術の使い方を教えてくれ」

久方ぶりに見る、ルークの真剣な表情。
ああやっぱり聞き違いじゃなかったんだと残念に思う反面、その真摯な目に心を打たれたり打たれなかったり。
…嫌だな、彼関係で一喜一憂するのはガイとティアだけで充分なのに。
しかし私も長年の付き合いです。
アドリビトムに来て以降の彼の成長は素直に嬉しいとも思えます。
が。

「嫌です。断固拒否します」
「ッお前、自分の立場分かってんのか!?クビにすっぞ!」
「退職金は5000万ガルドでお願いします」
「一生豪遊できんじゃねえか!」

ぎゃんぎゃんと喚くルーク。
からかうのは楽しいのですが、そろそろ鼓膜が限界なのでやめておきましょう。

「なんで私なんですか?他にもいるでしょう、術士」
「他の国は術の理論が違うっぽいんだよ。リタが言ってた」

ふぅん、と気のない返事をし、しばし思案します。
となると、教師はライマ国の者に限られるわけですか。
ヴァンとティアは血筋から成る特殊な術式を使っていますし、ガイとナタリアは攻撃術が使えない。アニスは属性偏ってて、ジェイドは……うん。

「なるほど。私のほうがマシですね」
「だろ?」

我が意を得て嬉しいらしく、ルークが目を輝かせます。
…本当。喜んでる時は、年齢不相応に無邪気ですよね、ルークは。
私は指先を顎に当て、頭の中をしばし整理します。
……そうだなぁ。

「わかりました。いいですよ」
「!えっ」
「ただし、私は教師ではありませんから。必ず使えるようになる確証は…」

そこまで言うのと、ルークが満面の笑みで首を振るのは同時のことでした。

「んだよ、アッシュにできるんだ。俺にできねーわけねーだろ!」

私の手でも握りそうな勢いで詰め寄り、得意げに胸を張るルーク。
喜怒哀楽の転化が早すぎてついていけません。
すると、なんということでしょうか。
目を白黒とさせる私に、ルークは頭を下げて見せたのです。しかも直角に。

「ご指南、よろしくお願いします。えーと…ユノセンセイ」
「……なにそれ」
「はぁ!?稽古つけてもらうんだから、当然だろ」

完璧に取り残された私に、ルークは恥ずかしそうに吐き捨てます。
言葉尻が強いのは、照れているからでしょうか。

「…それでは、こちらこそ。頑張りましょうね、ほどほどに」
「そこはがっつり頑張ってくれよ…」
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