「ユノは、どうしてその武器を使うんだ?」

正面で甘そうなカレーを食べていたアスベルが、手を止めて尋ねてきました。
唐突な質問に戸惑いながら、私も手を止めます。
そうですねぇ。

「成り行きです。最初は普通の杖だったんですが、知人が勝手に改造して」
「へえ。改造?」
「最初は飛行機能とかいろいろ言ってたんですが、阻止しました」

声高々に喚き散らす"知人"を思い出し、げえっと舌を出してみせます。
飯がまずくなりますね。思い出さなければよかった。

「楽しそうじゃないか、飛行機能。俺の友人が好きそうだよ」
「物好きな友人ですね」
「そうだな。でも彼女も、ユノとそっくりな武器を使ってたんだ」

思わぬ言葉に、はたと目を瞬きます。

「これとそっくりな武器、ですか。珍しいですね」
「だろ?だから気になって聞いてみたんだ」

会話を一時中断し、各々の食事へと視線を戻します。
リリスとロックスが腕を振るった今日の昼食。おいしいはおいしいんですが、どうも必要以上に脂っぽいような気がします。なんとなくですけれど。

「……そういえば、アスベル。以前シェリアが言っていたんですが、」

なんのことはない世間話を口にした、その瞬間。
ドカーン、だかバカーン、だか。その類の轟音が響き、船全体が大きく揺らぎます。
厨房の奥から皿が割れる音もしました。
私とアスベルは全く同時に立ち上がり、天井を見上げます。

「甲板、ですかね」
「行こう、ユノ。何かあったのかもしれない」
「はい」

脂っぽい料理と甘口カレーを残して、食堂を飛び出した私達。
甲板の入り口には、既に人だかりができていました。
彼らの間を縫うようにして甲板を覗き込みます。…そこには、人間が刺さっていました。二人ほど。
……自分で言ってなんですけど、どういう状況なんだ。これ?

「おおっ、やったぁ!ついたよ、バンエルティア号!やった!」
「やった!じゃないよぉもう!死ぬかと思った!絶対死んだと思ったぁ!!」

刺さっていたのは、どちらも小柄な女性でした。
毛先だけ朱色の白髪という変わった風貌の彼女は朗らかに笑い、大きな帽子を被った金髪の女の子は泣きながら喚き散らしています。
とてもうるさいのですが、真っ当な反応は喚いているほうでしょう。たぶん。

「…ん。あ、いたいた!アスベルー、久しぶりっ!」
「パスカル!?」

白髪の彼女は、私の隣に立つアスベルへ向けてにこやかに手を振ってきました。
驚くアスベル。
そのとき私は、直感的に理解しました。先ほど話題に上がった"友人"は、目の前にいる彼女のことであろうと。…本当に好きだったんですね、飛行機能。

「っ…ベリル!?どうしたの、合流は次の港って…」
「コハク!!ぼ、ボクもそうするつもりだったんだけど…っ!」

人の波を掻き分けてきたコハクに、ベリルと呼ばれた彼女が泣きつきます。
ぼろぼろと溢れている涙。
よほど、海上に浮かぶこの船への飛行は辛かったのでしょう。
私達は無言のまま、アスベルと話しているパスカルのほうへ目を向けました。

「いやぁ、いきなり訪ねてビックリさせる気だったんだよねぇ。
 そしたら、港でバンエルティア号待ってる子がいたから、連れてきたの」

「無理やり連れてったんだろぉ!ボクは嫌だって言ったのに!!」

「えぇ?最初は楽しいって言ってたじゃん」

「まさか時速100キロまで上がると思わなかったからなぁ!」

………うわぁ。
目の前で繰り広げられる常識外の論争。本人たち、そしてアスベルとコハク以外の全員はただただ言葉を失っていました。
背後の人だかりが、少しずつ解消されていきます。
代わりに来たのはシングとヒスイにシェリア、そしてソフィの四人でした。

「なんだか凄い音がしたと思ったら…やっぱりパスカルだったのね」
「船、壊しちゃだめなんだよ。チャットが怒る」
「壊してないよ、へーきへーき。それよりソフィ、久しぶり!触らせて〜!」
「やだ」

「お前、また随分ド派手に登場したなぁ」
「空飛んだんでしょ、ベリル?どうだった、楽しかった?」
「全然楽しくないよ!好きで派手に登場したんじゃないっつーの!」

既知の者と再会し、ぎゃあぎゃあと喚く面々。
完全に帰るタイミングを逃した部外者の私は、それを呆然と眺めてみます。
「…アスベル。早く鎮めたほうがいいですよ、これ」
「ああ…」
「チャットとアンジュが来たら、多分すっげー怒ると思います」
「…」
気まずそうに目を泳がせるアスベルが、何事かを言おうと口を開きます。

「み、」
彼の声が言葉になる、その寸前。
開け放たれた扉から大量のピコハンが垂直に飛来したのはその瞬間でした。

「誰ですかああああ!ボクのバンエルティア号を破壊したのはっ!!」

……もう、どうにでもしてほしい。
私は烈火のごとく怒り狂うチャットの横をすり抜け、食堂に戻り。
そして冷め切った脂っぽい料理に、再び手をつけたのでした。
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