甲板に佇む見知らぬ女の子に、目を奪われた。

誤解を招くような言い方だけど、一目惚れとかではない。
確かに可愛い子ではあったが、目を奪われたのはもっと単純な理由だ。

「おぉ…すごい!すごい!これ、どうなてるか?すごい…!」

不審。その一言に尽きる。
随分と露出の多い衣装に身を纏った彼女は、目をきらきらとさせながら甲板を動き回っている。そして全てのものが目新しいかのように周囲を見渡して、しきりに凄い凄いと繰り返していた。…どこからツッコめばいいのか分からん!

「え、えーと…そこのお嬢さん?お姉さん?…何してんの?」
「!あ」

しばし立ち尽くした後に声をかけてみると、すごく驚かれた。
指までさされる。珍獣になった気分だった。

「この船の人か?初めまして!キュキュ、友達 呼ばれた!」
「友達…?」

キュキュ、とは彼女の名前だろうか。はて。どこぞで聞いたような。
片言でつむがれた言葉を何度か頭の中で反芻する。
彼女はどうやら、この船にいる友達に呼ばれてやってきたらしい。
その友達とは誰か。…そうだなぁ、前に聞いたような。

「変な白衣。名前、なにか?」
「だ、誰が変な白衣だ!誰がっ!」

思い出した、イリアだ!イリアが言ってたんだ、そういえば!

ありし日のやり取りを思い出しながら、キュキュに詰め寄る。きょとんとされた。どうやらイリアの言っていた"外見で呼称を決める"というのは真実らしい。

「俺はイリヤだよ、キュキュ。初めまして」
「イリヤ…はい、わかた。はじめまして!」

嬉しそうに微笑んだキュキュは、その場でくるくると踊ってみせた。
どうも、感情表現が豊かな人のようだ。
微笑ましい気持ちで喜ぶ彼女を見守っていた俺だったが、キュキュに抱きつかれた瞬間にそんな気分は吹っ飛んだ。目の前が一瞬で真っ白に染まる。

「イリヤ、キュキュの友達。よろしく!」
「え?あ、ああ…そうだな、と、友達だな…」
「はい!」
「…わ、わかったから。わかったから、離れてくれ…!」

胸が。胸が、すっごい当たってるから。
キュキュは照れる俺を不思議そうに見上げていたものの、ゆっくりと離れてくれた。
…なんか、残念なような安心したような、微妙な心境になる。

「えーと。キュキュはイリアやルカの友達…で、あってる?」
「はい。あとで、もう一人来る。たぶん」
「もう一人?…どんな人?」

キュキュの表情が豹変した。
先ほどまでの晴れやかで愛らしい雰囲気は何処へやら。
一瞬で苦虫を噛み潰したような、そしてそれを吐き捨てるような、実に嫌そうな顔になる。正直豹変しすぎてて恐ろしい。こっちが本性なのか?

「……どんな人。モヤシ。ヒョロくて、長い」
「そ、…そう。ヒョロ長いんだ…」

どんだけ嫌われてんだよ、その人。
俺が返事するや否や、瞬時に元の表情へ戻ったキュキュに圧倒される。
彼女が嫌うのは"ヒョロ長いモヤシな人"のみのようだ。…見た感じ、人の良さそうな明るい女の子なのに、こんな子にそこまで嫌われるとは。
興味がある反面、恐ろしい思いもある。

「とにかく、ルカやイリアのとこに案内する前に手続きしないと。ギルドマスターは知ってる?」
「マスター…知てる!アンジュ!」

アンジュとも知り合いなのかと尋ねたら、元気よく頷かれた。

「キュキュ、一緒 いる。イリヤ、よろしく!」

何はともあれ、少し変わった仲間が増えた。これは歓迎すべき事態だと、俺は思う。

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