風呂上りに、赤毛の兄のほうに呼び止められた。 「あー、おい。待てよお前、リドルだっけ」 「はい。リドルです」 「ちっと用事があんだよ。今ヒマだろ?」 有無を言わせぬ語調で詰め寄ってくるルーク・フォン・ファブレ。 傲慢な物言いに圧倒されつつ、静かに頷いた。 「なら、ちょうどいーや。俺、今依頼に呼ばれてんだけど、たりーから行きたくねーんだよ。お前剣士じゃん?俺の代わりに行ってきてくれよ」 とんでもない申し出に、つい言葉を失ってしまった。 何を言い出すんですかこの人は。 …そういえば、湯船に浸かってる間に彼を呼ぶ放送が流れていたような気がする。となると、呼び出しを受けたのは相当前じゃないんだろうか。 「駄目だと思いますよ?呼ばれたら、行ける範囲で応えるのがルールみたいですし」 「だから!その"行ける範囲"じゃねーんだよ!」 苛立ちを隠そうともしないルークに、憤るよりは呆れてしまった。 別に依頼に応えるのは構わない。 でもわざわざルークを呼んだ以上、何か理由があるんだろうし…代わりに行って問題があったら困る。 煮え切らない私に、ルークはますます苛立っているようだった。 …彼を呼ぶ放送が、再び流れる。 「……うん。じゃあ、こうしましょうか。ルーク様」 立場上、敬称をつけて呼ぶ。 ルーク(心の中ではつけない。同い年だし)は眉を寄せて、私の言葉を待った。 「一緒に行きましょう。今から。半分だけなら手伝ってあげます」 「……ハァ?お前、俺の話聞いてたのか!?」 驚き、詰め寄ってくるルーク。 不良のような口調だけれども、言動が子どもっぽいせいだろうか。全く怖くないどころか、かなりの余裕をもって対応することができた。 にこにこと笑う私に、ルークが動きを止める。 「聞いてましたよ。だから"手伝います"。それでいいでしょう?」 「……」 「嫌ならティアとナタリアにチクっちゃいますよ」 暫くの無言ののち、舌打ちが聞こえた。 くるりと身を翻してホールに向かうルーク。朱色の髪が揺れて綺麗だった。 「……半分しかやんねーからな。きっちりやれよ」 「はーい」 本当に子どもみたいだ。 思わず笑ってしまいそうになるのを抑えながら、私は揺れる朱色を追いかけた。 |