前回のあらすじ。
ルークのミスによって金欠、ナタリアのミスによって食料不足の危機に追い込まれた一同。
少ない残金(1020ガルド)をそこそこ生活できる程度(目安としては10000ガルド)まで増やすことを決心した私たちは、幸い近くにあったバチカルの町へ乗り込んだのでした。

説明終了。ここから現状報告です。

「すっげえ!やっぱ闘技場って最高だな!」
道具袋いっぱいの消耗品、そこそこ貯まったガルドを眺めたルークはご満悦です。
ほくほくと札を数える姿は、とても王位継承者とは思えませんね。

「なあなあ、もう一回やろうぜ!今度は上級編!」
「…もういいんじゃないかしら?お金も貯まったし、食料も買えたし」
「引き際も肝心だぞ。ルーク」

バチカルにある闘技場は、商店街を抜けたすぐ先にあります。
よって私たちは『闘技場で金を稼ぐ→買い物をする→闘技場で金を稼ぐ』を数回繰り返し、消耗品とお金を同時に手に入れるという荒業を成し遂げていました。
そう、手に入れたんですよ。食料もお金も消耗品も。

「いーじゃねーか!参加費安いんだし!」
「残金20ガルドまで買い物しまくった奴がよく言うよ…」
アニスの呆れた声に、うんうんと頷いて同意します。拗ねたルークが批判の声をあげましたが、ええ無視です。興味ありません。

「私は別にどうでもいいんですけどね。イオンくんはどう思います?」
「はい。応援するのも楽しいので、僕もどっちでもいいですよ」
朗らかな笑顔で告げるイオンくんですが、いまいちかみ合っていませんね。
そして『応援するのも楽しい』と断言している以上、意見はルーク寄り…なのでしょうか。

「では魔王さ……失礼、ジェイドはどう思いますか?」
「私はどちらでも構いませんよ」

おや、意外な答えですね。

「調子に乗りすぎたどこかの誰かが、無残に脱落するようなハメにならなければ。
 …いえ、それはそれで面白いかもしれませんねえ」

分かりました。ルーク、私が付き合うので団体戦に出ましょう。
もし貴方が調子に乗ってシングルの上級編に挑んで、うっかり負けたりなんかしたら。
その時は、この旅の続行すら危うくなってしまいます。

メンバーはそうですね、私と貴方とそこで怒りを持て余した鬼畜メガ痛い痛い痛い頭潰れる脳漿出るごめんなさい痛い痛い痛い!!


結果。
「名前ちゃん、アニスー!頑張ってくださーい」
観客席から飛ばされる、イオンくんの楽しげな声。
巨大化したトクナガと共に手を振るアニスは満面の笑顔ですが、その瞳は血に飢えた獣以外の何物でもありません。

そしてなぜか、彼女の唇はしきりにぶつぶつ動いています。
何を呟いているか気になるので、少しだけ近づいてみましょうか。
「へへ…これに勝てば五万ガルド!えへへ。ふふ…ふふふふふふふふふ」
はい、以上です。異常です。

「ティア。お金とは末恐ろしいものですね」
「そうね。…だけどアニス、今までで一番輝いているわ」
「なまじ輝いてるだけに余計性質が悪いですよ…」

さも微笑ましそうに言うティアに肩を落とす。
どうせ『手を振るトクナガかわいい』みたいなことを考えているのでしょう。彼女の横顔もまた、相当に幸せそうなものでありました。

数秒後。
鼓膜をびりびりと震わせるほど大きなアナウンスが響き、団体戦上級編の最終バトルが始まることを宣言しました。途端、湧き上がる歓声。
ここまで多数の目に見られることにはさすがに慣れないので、同じく戸惑っている様子のティアと顔を見合わせます。
先ほどと一変して、照れたような微笑で応えられました。
……これに比べて、あの二人ときたら。

「オラァ!来いやぁ!!」
「五万ガルドのため!アニスちゃん全力で頑張っちゃうもんねー!!」

チンピラ以外の何物でもありません。
ギラギラと燃える二人(+トクナガ)、そしてテンションが下がりはじめた私とティア。
その前に引っ立てられたラスボスのドラゴンは、何に気圧されたのか冷や汗をかいて一歩後退したのでした。

決着がついたのは五分後。
かなり硬かったドラゴンも、秘奥義四連発には耐えられなかったようです。

「ごまん、ガルドーっ!!」
文字通り飛び上がって喜ぶアニス。トクナガの巨体、空を舞う。
ティアのきらきらした目が気になりますが、本人につっこむと面倒臭そうなので見なかったことにしましょう。
「なんか、結構手ごたえなかったな」
「ドラゴン、ビビりまくってましたしね。よほど恐ろしかったのでしょう」
「アニスが?」
「アニスが」
だってアレ、私でもビビりますよ。
まさに守銭奴…いえ、金の亡者という表現がぴったりと合致します。

アニスの背を眺めていた私たちですが、ふいにルークが肩を落としては深い溜息をつきました。そして「つまんねえ」と小さな呟き。

「俺としてはもうちょい暴れたかったっつーか。やっぱりシングル…」
『おぉっとぉ!?』

ルークの声にかぶさった、司会のアナウンス。
私たちは会話をやめ、アニスも飛び上がるのをやめ。会場の全員が司会を凝視します。

『なんとなんと、エキシビションマッチ開催!
 挑戦者の四名、気を抜くな!闘技場最強の四人がやってくるぞ!!』

「最強っ!?」
私にとっては不吉極まりない言葉でしたが、好戦的なルーク坊ちゃんにとっては喜ばしいようです。
つまらなそうに眇められていた瞳は先ほどのアニスよろしくキラキラと光り、ええもう面倒臭いです色々と。
「………」
無言で観客席の最前列を見上げます。
と、ガッツポーズのイオンくんとナタリア。無表情のジェイド。苦笑するガイと、懸命に小さな手を振るミュウの姿が見えました。
…今からでもいいから、誰か代わってはくれないでしょうか。

「………あれ」
そんなこんなしているうちに、正面の檻が開かれていました。
慣れた歩調で広場に出てくる四人。彼らの色彩が、埃っぽい広場を鮮烈に染め上げます。
最強の四人。らしい、のですが。
見知らぬ面々ばかりのうちに一人、どうも見覚えのある顔がありますね。

「あ。あんたはいつぞやの?」
「そういう貴女も、いつぞやの」

ティアに知り合いかと首を傾げられましたが、なんと答えたものでしょう。
赤い髪の、見慣れない服装の彼女。
以前バチカルに訪れた際に道を聞いてきた、あの時の人です。
閉まっている闘技場に何の用かと思いましたが、そういうことだったんですね。

「ここで戦うことになるなんて、奇遇だね。
 本当なら、お礼に食事のひとつでも振舞ってあげたいところだけど…」
「ええ。そんなことをしてる状況ではありませんね」

ルークに負けず劣らずな笑みを浮かべ、弓を構える彼女。
その周囲の三人も、それぞれ剣やら杖やらを構えてこちらを見据えています。
「はぅあ。強そ…」
「けど、久々に思いっきりやれそうじゃん。やるぜ名前、アニス、ティア!」
「勿論よ。手は抜かないわ」
多少怖気づきつつも、各々武器を構えます。

…最初に地を蹴ったのは、誰だったのでしょうか。
ともかくその後の戦闘は熾烈を極め、技と術、そしてレイズデッドが飛び交いまくり。

最後に倒れ伏したのは、ルークでした。
…ええ、私はというと二番目にやられましたね。アニスの次です。すげー痛かったんですよ、仕方ありません。
そうして見事に惨敗した私たちは、イオンくんらに散々慰められつつ、すごすごと宿に引っ込みました。

やたらと笑顔なジェイドは、あの四人組の猛攻よりも恐ろしく。
次に私達が闘技場に挑んだのは、これから数ヶ月後のこととなってしまいました。

…だ、だって怖かったんですよ…ものすごく!


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