「やめろっ!魔神剣!!」
スタンの叫びと、兵士の絶叫。
周囲から湧いた悲鳴を聞きながら、乾いた笑いをもらす。
ああ、駄目だこりゃ。

「何してんだお前ーっ!目立ったら一巻の終わりだって言っただろ!」
「だって!あいつらぶつかったってだけで、子供と母親を殺そうとしたんだぞ!?」

怒り狂って追ってくる兵士から、全力疾走で逃げる。
事を見たわけではないが、まあ大体の想像はつく。間違ったことをしたとは言わないが、もう少し考えろと切に訴えたい。

「馬鹿が!もう少し考えろ!!」
俺に並んで走るリオンが代弁してくれた。しょぼくれるスタン。

「どうする?土地勘のある兵士相手じゃ時間の問題だぞ」
「ここはあれだろあれ、イリヤさんの必殺奥義"スタン爆弾"でだな…」
「やめてくれ!」
「もう!ふざけてる場合じゃないでしょ!?」
逃げながらも場を和ませようとした俺に総攻撃が仕掛けられる。
ちなみにフィリアは走るのに精一杯で喋れないようだ。
…むう、却下されたか、スタン爆弾。名案だと思ったんだけどな。

思案しながら最前線を突っ走っていた俺の腕が、突然横から伸びてきた第三者に掴まれる。
「ぅおッ…!?」
「…静かに。全員こっちへ来い、俺が隠してやる」
不意打ちで一気に俺を路地へ引きずり込んだその男は、後続していた面々を呼び寄せる。
戸惑った目が向けられる中、兵士の怒号が響き渡っていた。

「…時間がないな。やむを得ん」
リオンが舌を打ってつかつかと路地の闇へ飛び込んでくる。
そして俺と男の間に割り込んでは、スタンたち旅の集団と謎の男を分断した。

「賢明な判断だな。セインガルドの剣士さん」
愉しげに口笛を吹く、金髪の男。
やけに装飾の多い服装が目を引く、まさに道化然とした風体の男だった。
彼は困惑している面々を路地に残して光の中へ躍り出ると、慌だたしく駆け寄ってきた兵士の応対を勤め始めた。

「貴様!この辺りに異国人の集団が来ただろう、どっちへ行った!?」
「異国人?知らないな。そんなことよりお兄さんがた、この道化のジョニーの歌を聴いていかないかい?」
「はぁ?何を言って…」
「それじゃあ行くぜ!どうぞご清聴あれ!」
「!?」

驚愕して仰け反る兵士たちをよそに、実に暢気な調子でリュートを鳴らし始める"ジョニー"。
拍子抜けするというか毒気を抜かれるような音と、独創的すぎる歌詞、そしてそれを違和感だけで歌い上げる歌唱力。
道化というからには傾く目的で歌うのだろうし、これでいいとは思うんだが…

「どっからつっこめばいいのかわかんねーよ…」
「え、そうか?俺はいい歌だと思うけど」
「………どっからつっこめばいいのかわかんねーよ」
思わず二回言ってしまった。
目を輝かせるスタンにがっくりと肩を落としていると、あまりに言葉の通じない道化に恐れをなして逃げ去っていく兵士の声が聞こえた。
…が、歌声は止まない。

「いややめろよ!歌うの!」
「騒がしいお坊ちゃんだな〜。俺は一回始めた歌は最後まで歌いたい性質なんだよ」
苛立ちに任せ、小声ながらも叫んだ俺にジョニーが歩み寄ってくる。

「さて。訳ありっぽい一同様、もう大丈夫だぜ」

陽気な笑顔から一変、真面目な顔で言い放った彼にスタンたちが息をつく。
リオンだけは鋭い眼光でジョニーの顔を凝視していたが、彼はへらりと脱力する笑顔で受け流してしまう。

「そっちの三人はともかく、神官にセインガルドの剣士、それから学者か。妙な組み合わせだな」
「…」
「なあお前さん達。ひょっとすると、バティスタの件でここに来たのかい?」
「!どうしてわかったんですか!?」

咄嗟に反応したスタンを、俺とリオンが同時に睨む。超露骨なカマだったろうが。ひっかかるなよ。
案の定ジョニーは「やっぱりそうか」としたり顔で言っては、木製の壁に背を預ける。

「いきなりやって来ては好き勝手やってくれてる外来の領主様だ。
 余所でどんな悪さをしてきたかは、道化にだって想像くらいつくってもんだ」
「……バティスタ…」

荒れ果てた街、圧制に怯える市民。
それをもたらしたのが他でもないバティスタと聞かされたフィリアは、胸の前で組んだ手をきつく握り締めた。

「…それで?あんたの目的はなんなんだ、ジョニーさん」
「お。話が早いね」
飄々と本題をかわしていたジョニーに問いかける。
何故だか知らないが、妙にイライラする。なんだろう。人間としての本質みたいなものが合わないのかもしれない。
リオンが戸惑ったような、不思議そうな視線を送ってくるが黙殺する。

「大きい声じゃあ言えない話なんだが…小さい声じゃ聞こえない、と。
 お前さんたちモリュウ城に行くんだろう?俺の親友が囚われてるんだ。救い出すのにちょいと協力して…」
「断る」

提案を聞くことすらせずに両断するリオン。
全員の視線が集中するが、彼は気にも留めずに「素性のわからない奴と行動を共にできるか」と吐き捨てる。
折角助けてくれたのにとスタンが食い下がるが、それとこれとは話が別だ。
しかしリオンの反応すら想定内だったのだろうジョニーは、むしろ笑みを浮かべてみせる。
「そういえば、ちゃんと自己紹介してなかったな」
壁から背を離して向き直る。
装飾過多な長身の威圧感は半端じゃない。

「俺はジョニー・シデン。そして囚われた親友の名はフェイト・モリュウ。
 今をときめく黒十字艦隊の総司令様で、このモリュウ領本来の領主。…これでも駄目か?」

「…黒十字艦隊、だと?」

リオンの眉が寄る。
「確かアクアヴェイル屈指の船上部隊だと聞きましたわ」
「ああ、じゃあその領主様助けたら、トウケイ領まで乗せてってもらえるってこと?」
「………」
硬直するリオン。頭の中で色々考えているらしい。

数分後。

「じゃ、潜入はボートを使うからな。補給はちゃんとしとけよ〜」
太陽の下で笑うジョニーに先導され、水路の周囲を並んで歩く。兵士たちの姿は既に失せていた。
今後を思ってのこととはいえ、こいつと一緒に戦うのか。
気が重くなるのを隠そうともせずに溜息をつけば、肩にジョニーの腕が置かれる。妙に馴れ馴れしい。

「お坊ちゃん、もっと楽しく行こうぜ?旅は道連れ、世は情けってね」
「お坊ちゃん言うな。それは俺の名詞じゃない」
「…イリヤ、お前、少しこっちに来い。叩き斬ってやる」



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