「イカスヒップ!!」
天井近くまで跳び上がったコングマンの、強烈なヒップアタックが炸裂する。
もう床が抜けるんじゃねーのってぐらいの勢いで敵を撃沈させた彼は、その鍛え上げた肉体を誇示しながら高らかに宣言する。

「口程にもねえ!俺様にかかりゃあこんなもんよ!」

呵呵大笑する彼は、ノイシュタットのチャンピオン。
街を襲撃してきた武装海賊を叩くため、こうして海賊船に乗り込んできたのだが…ここまで騒がなくてもいいと思う。
随分な大人数になってしまったのと、閉鎖空間ということで戦闘メンバーを限定しているのだが、現在は控えに回っているリオンが実に不機嫌そうな顔で突っ立っている。

「どうでした、フィリアさん!俺様の活躍、見ていてくれましたか!」
「え、ええ…見ていました。頑張ってくださいね…」
同じく控えに回っているフィリアにアピールするコングマン。絵面が最悪である。
ルーティと共に後衛でなんともいえない表情をし、彼らの漫才劇を見守る。とうとうリオンの額に青筋が走った。

「お前ら、気を抜くな!敵地の真ん中にいることを忘れたのか!」
「なんであたしに言うのよ、このクソガキ!」

今日も今日とて、この二人は騒がしい。
静かにルーティの傍らから離れ、先導しているスタンの隣に並んだ。

「大丈夫か、スタン?結構消耗してるように見えるけど」
「ああ、まだまだ行ける。早く親玉を見つけないと」
毅然と頷き、歩を早めるスタン。しかしその横顔には汗が滲んでいて、どうも大丈夫そうには見えない。

ボス戦でへばられて、困るのは俺たちなんだけど。
そう思いつつも、大丈夫だというやつに言及することもない。
俺はそれ以上は何もいわず、ただスタンを激励して、隣を走った。
そして立ちふさがる最後の扉。
コングマンが躊躇なく蹴り破ったその先には、僧衣服を纏った長身の男の姿があった。

「っ…バティスタ…!?」
知り合いだったらしいフィリアが言葉を詰まらせる。
バティスタ、と呼ばれた男はさも可笑しそうに鼻を鳴らし、懐かしい顔だとフィリアを見る。

「グズのフィリアが、こんなところまで追ってきやがって。
 大人しく神殿で石になってりゃあ良かったものを…」
「…ッ」

石。その言葉は少なからずフィリアの傷を抉ったようで、彼女の顔が強張る。
…が、それだけだ。フィリアはすぐに呼吸を落ち着け、強い意思の篭った瞳でバティスタを睨みつける。

「…バティスタ。あなたのしたこと、そしてグレバムのしたこと、決して赦されることではありません。
 あなたが私達を阻むのなら…私がすることは、一つです!」

フィリアの掲げたクレメンテが、目映い光を放つ。
それと同時にバティスタが両腕に装着する爪のような武器を抜き、凄まじい速さでこちらへと突進してきた。
即座に全員が体制を整え、目の前の敵を見据える。

「フレアトルネード!」

フィリアの晶術が完成し、熱波と業火が吹き荒れる。
しかし炎はバティスタの服の端を焼くだけに留まり、表立った損傷は与えられなかった。

「ソーディアンか。フィリアのくせに大層なもん持ってんじゃねえか」
嗜虐的な笑みで嘯くバティスタが指笛を鳴らす。
途端に背後にあった扉が開き、途中で何度も撃破した魔物や僧侶、海賊たちが怒涛のように部屋へ押し寄せてきた。
一気に人口が跳ね上がった船室に、思わず舌を打つ。

「っ…マリー、ルーティ、イリヤ!お前達は雑魚を片付けろ!」
シャルティエの刃を閃かせ、バティスタと切り結ぶリオン。
更に猛然と立ち向かうスタンとコングマンの姿を尻目に、マリーの隣へと向かう。
前衛に立った俺にルーティとマリーが目を瞬いたが、今のところは黙殺する。

「ちょっとイリヤ…あんた、前出て大丈夫なわけ?」
「大丈夫も何も、俺が前出ないとバランス悪いだろ。ルーティじゃ相性悪いしな」

船上とのこともあり、相手は水棲生物が多い。
水属性のアトワイトを持つルーティでは分が悪いし、何より彼女が倒れては援護役がいなくなってしまう。
軽く拳を握り、半身に構える。格闘術は得意ではないが、不得意でもない。
そのへんの魔物や海賊相手ならじゅうぶん戦える…と、思う。多分。

「来るぞ!」
一斉に飛び掛ってきた敵の軍勢に、マリーが吠える。
彼女の斧の一振りで、直撃した魔物なぞはボールか何かのように吹き飛んだ。凄まじい威力だ。

難を逃れた敵が怯んだ隙を狙い、懐に滑り込む。
海賊の持つ、石化の毒を塗った短剣は確かに脅威だ。けど、当たらなければ関係ない。
「双撞、掌底破!」
両の手のひらで繰り出す二連撃。的確に急所を抑えた攻撃に、背後の敵もろとも撃沈する海賊のおっさん。
マリーに比べれば見劣りする地味な攻撃だが、俺が中後衛であることを前提にして考えてもらえると嬉しい。

「…」
寄ってきた魔物を蹴り飛ばした瞬間、横目で呆然とするルーティが目に入る。
俺が前衛でそれなりに戦えることに驚いているだけっぽいのだが、からかう絶好のチャンスだ。逃がす道理もない。

「なんだよルーティ、思わぬ一面にドキドキか?惚れた?」
「っ…アイスニードル!」
「あ痛っ!」
マジギレされた。尖ってはいなかったものの、拳大の氷の塊が背中に直撃する。

「冗談だろ!?なんで本気にするんだよ!」
「黙りなさい!ほら、あんまり余所見してるとあのクソガキに怒られ っ痛い!」
リオンの放ったストーンブラストがルーティに直撃する。
ふざけられる程度には対バティスタの面々は余裕があるようで安心した。

「じゃ、さっさと雑魚も片付けちゃおうぜ。そろそろ飽きてきたし」
「同感だな。早く向こうに加勢したい」
「…マリー、あんたは強いやつと戦いたいだけじゃないの?」

三人並んで構えなおす。
雑魚の波は弱まってきている。この勢いで圧せば、バティスタより早く片付くだろう。

「ゴッツァブロウ!」
「ぐああああ!!」

……あ、後ろ、終わったっぽい。
恐らく最悪のとどめを刺されただろうバティスタを想い、そっと目を伏せる。
可哀想に。コングマン、空気読めよ。ここはフィリアが倒すところだろう。

居心地の悪さに顔を引き攣らせたリオンとスタンが俺達に加勢し、雑魚を一掃する。
ようやっと向き直ったバティスタは、四肢を投げ出して見事に目を回していた。

いやあ、すっげーな。チャンピオン。



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