「だからさーごめんってば。俺も大変だったんだよー」
「………」

ハーメンツの牧歌的な街並みに囲まれながら、そっぽを向いた知己の顔色を窺う。
二人になってからというもの、ずっとこの調子だ。
先刻剣を向けられた時に、一瞬だけ泣きそうな顔をして睨まれたのを最後に、エミリオ…じゃないか、リオン、は全く俺の顔を見ようとしない。

『坊ちゃん。折角イリヤに会えたんだから、きちんと話しましょうよ』
先ほどまでディムロスとアトワイトとの再会や今後の説教を案じて沈んでいたシャルティエも、殊更に明るい声を出してはリオンをなだめている。
ちらちらと俺の様子を窺うシャルティエの姿が目に浮かぶようだ。…いや、容姿知らないんだけど。

「そりゃあ勿論、生存報告くらいはしようとしたさ。
 でも白衣燃えちゃってさー、身分証明できるものが何もなくて…」
「…見苦しいぞ、イリヤ」

忙しなく話しかける俺がうざったくなったのか、小鳥を殺せそうなくらい鋭い眼光のリオンが振り返る。

「次から次へと、よくそんな言い訳が湧いてでるものだな。なにか他に言うことはないのか?」
「…他に?」

虚を突かれ、目を瞬く。
他に、か。よく分からないけど、墜落から現在に至る旅の話をしたら殴られるだろうってことは分かる。
暫く思案した俺は、ふと一つの言葉を思いついた。
咳払いをひとつして、リオンの仏頂面と改めて向き直る。

「ただいま、リオン。会いたかったぜ」

二メートルかそこらの距離を以って見ていたリオンの目が、ばつが悪そうに揺れる。
そして軽くうつむくと、一言多い、と吐き捨てるように呟いた。

…あれ、何が多かったんだろうか。
少しだけ満足げに唇を歪めたリオンが、俺に背を向けてハーメンツの正面出口へ向かっていく。
慌てて追いすがると、何やら騒いでいるシャルティエの声がかすかに聞こえてきた。
「イリヤ」
振り返ることなく立ち止まったリオンが、風で消えそうなほど小さな声で云う。

「おかえり」



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