詳しい勝敗その他諸々は割愛しようと思う。
優勝劣勝。楽しんだ者みんなが勝ち、そんな奇麗事でお茶を濁しちゃうのも悪くない。

「でも、壮観だったねえ。伊月さんとテツヤくんのパス合戦」
「編成の問題ですね。…黄瀬くん、生きてる?」
「…なんとか……」

ぐったりとマジバのテーブルに突っ伏した黄瀬くんは、地を這うような物々しい声で答えてきた。ゾンビみたいになってる…無理もないか。

「黒子もオレも攻撃的なタイプじゃないからな。
 あのメンバーと正面切ってやりあうのは、ちょっと無理だし」

だけど黄瀬には悪いことしたな、と伊月さんが苦笑する。数十分前の死闘を思い出しているんだろう。
…遊びみたいなもんだとか言い出したヤツは、本当に表に出ろってレベルの戦いだった。
思い出しただけでげっそりしてしまう。楽しかったは楽しかったのだけれど、その…相田さんと桃ちゃんが持参したレモンの衝撃が抜け切らない。
まさか二人目が出てくるなんて思いもしなかった。
恐ろしい。

「カントク、前に丸ごとレモン漬けてきてさ。せめて切れって言ったら、あの有様で…」
「確かに切ってありましたね。真っ二つに」
「…ボク、また丸ごと食べさせられたんですけど」

不貞腐れたテツヤくんがぼそりと呟く。
確かに散々の批判にキレた相田さんが、涙目でハーフレモンをねじ込んだのはテツヤくんの口だった。
疲労と酸欠でぱったりと倒れた彼の姿が脳裏によぎる。黄瀬くんが必死になって叩き起こしていたが、むしろあれがトドメだっただろう。

「黒子っち、まだ怒ってるんスか?ほんと悪かったって思っ…」
「怒ってないです」

黄瀬くんに一瞥すら向けず、テツヤくんがシェイクを啜る。
取り付く島も無い態度に黄瀬くんが再び項垂れるが、慰めるのは面倒臭かった。

「…あの、伊月さん。今更だけど、誘ってくれてありがとうございました」
「うん?」

近隣のテーブルで馬鹿騒ぎをする面々を眺めながら、隣に座る伊月さんへ呼びかける。

「別にオレに礼言われてもね。染宮誘うって言ったの、カントクだし」

「んー、まぁ、そうなんだけど」
首を捻りながら、言葉を選ぶ。
えぇと、なんて言ったらいいんだろう。誘う提案をしたのは相田さんでも、決断をしてくれたのは他の面々というか。

「…なんか、すごい感謝してるんです。今ここにいる皆に」

黄瀬くんが海常と誠凛の練習試合へ誘ってくれた時、バスケが好きだと感じた。
だけど、『好き』だと感じただけで、次の段階へ進もうとは思わなかった。
高校にバスケ部がなくて、それどころか作ることも出来そうになくて。その瞬間に、諦めてしまっていた。
心のどこかで、『頑張っても帝光中学ほどのバスケは見れない』と、諦めてしまっていた。

でも、今は違う。

「私…バスケ部、また入ってみます。すぐには難しいかもしれないけど…
 桃ちゃんや相田さんに比べたら、真似事程度の仕事しかできないけど。
 でも、…頑張ってみます。皆さんに、負けないように」

胸のうちに合った決意のようなものを、口に出す。
その時は全く気にならなかったのだが、伊月さんが非常に優しげな声で「…うん、そっか」と応えてくれた瞬間、一気に頭が冷えた。

今、私とんでもなく恥ずかしいことを言ったんじゃないか。
そう思い立った直後、顔面に熱が集まるのを感じた。

「ううぅ…あああああ!や、やっぱ今のナシ!聞かなかったことにして!」

「え?いや、いんじゃない?それよりさっきの話で気になったんだけど!
 『マネージャーの、マネ事』…よくね?どうよ?」

「伊月先輩空気読んでください」

「あはは、寒いっスね。…どっちも」

「死ね、黄瀬!…私も死んじゃいたい!!」

両手で頭を抱え、全力で記憶の消去へと取り掛かる。
忘れろ!忘れろ!!完璧に忘れないと、今日の夜に思い出して眠れなくなるから!

熱心に何かをメモる伊月さん、頭を振り乱す私、必死にテツヤくんへ媚びる黄瀬くん、それを黙殺してポテトを齧るテツヤくん。
そんなシュール極まりないテーブルを遠巻きに眺めながら、他の面々が"他人のフリ"を貫いていたと知るのは、随分と後になってからであった。
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