無難な組み合わせになったような、カオスなような。
相田さんが用意していた四色のビブスをそれぞれに配る。

火神さんと青峰さんの悲鳴が響いていた。あの二人が同じチームとか最悪すぎる。
間に挟まれたのが世渡り上手代表高尾さんでよかったと心底思う…桜井さんとかだったら多分死んでただろうから。

「えっと、私たちはどうするんですか?」
「ああ、選手と同じようにチーム分けするわよ。クジあるし」

相田さんが四本の色つき割り箸を持っているが、生憎マネージャー枠の人間は三人しかいない。
遊びのようなものだと言っていたし、別にサポート役がいなくても大丈夫だろうけど…不公平感は拭えないような。

「…うん。四人目はテツヤくん2号にお任せしよう」
「ワフ?」
足元にじゃれついていた子犬を抱え上げる。テツヤくんそっくりの顔に桃ちゃんの目がきらきらと輝いたが、2号のほうは桃ちゃんがあまり好きではないようだ。
ぷいと顔を背けては、黄瀬くんと談笑するテツヤくんへと目を向けている。

「じゃあ2号は緑チーム。私たちは残りの三本で引きましょう」
「異議なし」
「私もないでーす」

せーのでそろえてクジを引いた。
相田さんが黄色。桃ちゃんが青。私が赤。
…うん。
「「やり直しましょう」」
桃ちゃんと声がぴったり重なったが、相田さんは無言で笑うだけだった。嗚呼、無常。

かくして私は『全員眼鏡チーム』に配属されることとなったのでした。

「日向さん。ちょっと眼鏡とって下さい、眼鏡チーム呼ばわりが不快です」
「ダァホ、何言ってんだお前。眼鏡取ったら見えねーし、お前が取ればいいだろ」
「せやなぁ。伊達なんやろ、それ」
「似合っていないのだよ」

緑間さんは少し黙ったほうがいいと思う。
伊達は伊達だけれど、別にお洒落でかけてるんじゃない。最近視力が下がってきていて死活問題なんだから仕方ない。
気休めでもプラシーポでも、どっちでもいいんだ。

「…そうだ、染宮。お前アレ持ってきたか?レモン」
「あ、はい。持ってきました」
「!!…ちゃんと切ったんやろうな!?」

今吉さんの目が開いた。額には冷や汗が滲んでいて、哀れみを誘う。
…桃ちゃん。また作ったのか、丸ごとレモン。
どうしてあの子は何度教えても上達しないんだ…いっそ才能じゃなかろうか。

「切りました。桃ちゃんのことを考えながら、無心で。ひたすら」
「…キモイのだよ…」
緑間さんがげっそりしながら呟くが、「しかしお前の料理は美味い。それは認めているのだよ」と言葉を継いだ。
彼が素直に褒めてくるのは本当に珍しいので、少し面食らってしまう。
…中学時代散々弁当作らされたけど、美味しいだなんて初めて言われたな。文句は言ってこなかったから、不味くはないだろうと勝手に判断してただけだったから。
そう…か。美味しかったのか。

「えっと…ありがと。緑間さん」
「…!」

褒められて嬉しい半面、照れつつも礼を述べる。
先ほどの私同様に面食らったらしい緑間さんが言葉を詰まらせたが、それ以上何かを言ってくることはなかった。
…彼の後ろで、私たちを見ながらにやにやしている高尾さんが気になる。

「なるほどねー、やっぱり真ちゃんと理音ちゃんは似たもの同士なわけね」
「え。今のやり取りで何処が似てたの」
「ツンデレ」

唇の端が引き攣る。殴ろうかと思ったが、そう簡単に手をあげてはいけないと自制した。
可愛いものを思い浮かべるんだ、私。心を落ち着けるんだ。
深呼吸、深呼吸。
よし。

「あのね!私はツンツンもしてないし、デレた覚えも無っ、ぶべっ!!」
「「あっ」」

高尾さんに指をつきつけた私の後頭部にボールが直撃した。
凄まじい衝撃。新しい顔よ、の勢いだ。あの甘いヒーローは毎回この衝撃に耐えているのか。すごいな。
被っていた帽子が飛んでいくさまを、他人事のように見つめる。

「!うおっ…理音ちゃん?理音ちゃん!」
前のめりに倒れた私を、高尾さんが咄嗟に支えてくれた。
頭がぐわんぐわんする。
意識が朦朧とするが、寸でで耐える。眼鏡割れてないよね…割れてないといいな。

「ちょ、火神に青峰!お前ら何してんだっつの!」
「わ、悪い…アップしてたら、いつの間にか」
「ハァ?てめーが突っかかってきたんだろうがよ。
 やべーぞコレ、さつきに見つかる前になんとかしねーと殺されっかも」

青峰貴様、この後に及んでそれか。
殺意を芽生えさせつつ、心配そうに声をかけてくる高尾さんの声に応えておく。
いつまでも支えてもらうのも気がひけるので、軽く後ろへ退いてみた。頭が揺れる…けど、まあ立てないこともない。

「マジで悪かった。カントク呼んでくっから、ちょっと休んで…」
「あ、いいよ。痛いけど、大丈夫」
後頭部をさすっていたら、痛みもだんだんとまぎれてきた。
生理的な涙の滲んだ目も、無事だった眼鏡の下からついでに擦っておく。

火神さんはいまだに相田さんを呼ぶか否か迷っているようだったが、青峰さんの『さつきに殺されるかも』の言葉が効いているのか、結局は申し訳なさそうにアップへ戻っていった。
懸命な判断だと思う。本気の桃ちゃんは、ほんとうに恐ろしいから。

「…なー、青峰?お前はまだ戻っちゃ駄目だろ」

火神さんに続いて戻ろうとしていた青峰さんの背に、高尾さんが声をかける。
珍しく語気が荒い。ぎょっとしてその顔を見上げると、そこに普段浮かべている笑みは無かった。

「最後にボール投げたのはお前。後頭部直撃。相手は女の子。言う言葉があんじゃねーの?」
「……」

居心地の悪い気分のまま、高尾さんと青峰さんの顔を見比べる。
…本音では、一言謝罪があってもいいだろうと業腹ではある…けど、この後チームを組む彼らの仲が悪くなるのは、どうしても避けたい。
「高尾さん。もういいよ、私気にしてないし」
「オレが気にする」
早口に告げられた言葉に肩を落とした。この人、私のほう見てない。
切れ長の瞳はまっすぐに青峰さんに向けられており、どうも"私に謝罪すること"よりも、"筋を通すこと"に重点が向けられている様子だった。
真面目だなあ。

「…わーったよ、うるせーな…」

あ、青峰さんが折れた…だと!?
私は驚愕し、硬直する。その様子が滑稽だったのか、高尾さんが小さく噴き出した。
一方、青峰さんは億劫そうに私達へ背を向けて、落ちていた私の帽子を拾い上げる。
そしてすたすたと私の前へと歩み寄ってきた。

ぼすん。
大きな手で、頭を掴むように帽子がかぶせられる。

「悪かった。馬鹿んなったら、ごめんな」

帽子越しに、頭を撫でられる。押しつぶす動作に似たそれは普通に痛いし気持ちよくもなかったが、…不思議と不快ではなかった。
十秒もしないうちに開放される。
高尾さんの額にデコピンを一撃入れた青峰さんは、火神さんと同じようにアップへ戻っていく。

「…高尾さん」
「ん?」

痛そうに額をさすっていた彼を見上げる。

「ごめんね。ありがとう」
「…気にしてねーよ。面倒臭い友達ばっかで大変だな。お互い」

アップに行くという高尾さんに手を振る。
そろそろ私も眼鏡チームへ戻ろう、そう思って踵を返すが、その背中に青峰さんの声が投げつけられた。

「そういえば、染宮はもともと馬鹿だったな。超馬鹿んなんねーように気をつけろよー」

…………あいつ、いつか絶対ぶち殺す。


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