※軽い百合描写注意




これは、燃やしてもいいのだろうか。

「…………ないわー」
場所は部室。赤司さん他、全員が退室したあとに掃除に入っただけなんだけど、その…ロッカーの上で、見つけてしまった。俗悪文書。
これは、ヤバイ。
明らかに中学生に販売してはいけないレベルだろう。表紙からして嫌な予感しかしなかったのだけれども、好奇心半分で開いてしまったことを絶賛後悔中です。
…肌色で、目が痛い。

「んーん…でもまぁ、桃ちゃんのが大きい…かな?」
「え?」

部屋の隅でゴミを集めていた桃ちゃんが、私の意味深な視線に首を傾げる。
何なになんの話、とこちらに向かってくる彼女。
この俗悪文書を見せて良いものか迷ったが、桃ちゃんはあの青峰さんの幼馴染だ。そういったことには耐性があるだろうと判断する。

案の定、彼女は目が潰されかけるほどの肌色にも動じることなく、「もう誰だろうね、こんなもの放置するの」と呆れ半分にむくれていた。

「でもそうね、この子随分寄せてるみたいだし、私のほうが大きいかな」

あ、やっぱりこの人寄せてるんだ。
胸を張る桃ちゃんと写真の彼女を見比べながら、しみじみと感想を抱く。
…しっかし、本当に桃ちゃんは胸大きいな。一度触ってみたい。

「うん?いいよ、触ってみる?」
「えっ、えっ?い、いいんですかっ!?」
「なんで敬語なのそめりん」

別に女の子同士だし構わないよ、と難なく頷く桃ちゃん。
部室の中央に置かれた簡素なベンチに二人並んで腰を下ろし、上半身だけを捻って向かい合う。
…普段から視界に入っているはずの桃ちゃんを、変に意識してしまって困る。

「あ、あの…桃ちゃん。あとでお金請求したりしないよね?」
「しないわよ!…で、でもそうね。どうせだし、私もそめりん触ってみてもいい…かな?」
「えっ」

おおっとぉ!思わぬ方向から思わぬ攻撃が飛んできたぞ!
私の貧相な胸部をじっと凝視する桃ちゃんに撃墜されかけたが、寸でで耐える。
そ、そうだよね。私だけっていうのも、不平等…だよね。

「よ、よし来い。なんならブラ取って生でも構わんっ」
「えっ…じ、じゃあそれはまたの機会にする。今はとりあえず、ね?」

またの機会ってなんだ、とツッコめる人間はここにはいない。
一気に艶っぽく見えてしまった桃ちゃんと向かい合って、固唾を飲んで、二人同時にそろそろと右手を伸ばす。
…震える指先が、制服の端に触れる。その感触を脳が察知した、その瞬間。

ぴろりん、と。

この張り詰めた場におよそ相応しくない、間の抜けた音が響いたのだった。


******


黄瀬が、部室の前に張り付いていた。

なんなんだコイツ。この前テツとさつきを尾行したときといい、なんでいつも張り付いてんだ。馬鹿じゃねーの。
「……おい黄瀬、お前何やっ」
「!!シッ!青峰っち、ちょっと黙って!」
声をかけた直後に飛んできた黄瀬が、オレの口を塞いだ上で抑え込んでくる。ウザかったので振り払い、軽く小突いてみたが、まったく堪えた様子がなかった。

それどころか忍者のような速さで元の位置へ帰ってしまう始末だ。怖ぇ。

「ほんと、面白くなりそーなんスよ。邪魔しないで欲しいっス」
「面白くって…オレ部室入りてーんだけど」

先日購入した写真集、染宮流に言えば俗悪文書、を部室に置いてきてしまったのだ。
そろそろ部室を掃除するとかさつきが言ってた(ような気がする)し、面倒臭えのを押してわざわざ取りに来たというのに。
しかし仕方が無いので黄瀬に従って、無言のまま耳を澄ます。
…女の声が聞こえる。部室掃除の件は、既に手遅れだったらしい。

「…いや、これは…ないわー」

染宮だった。扉の死角部分から首を伸ばして、部室の内部を窺う……ってオイ!あれオレの忘れた写真集じゃねーか、染宮のヤツ何まじまじ読んでんだ!変態か!

「染宮っちって結構危ないっスよね。桃っちへの愛情とか、特に」
「あー…さつきがお前のファンに呼び出し受けたとき、あいつ金属バット持参で飛んでってたしな」
「金属バットぉ!?」

小声ながら黄瀬が驚愕して仰け反る。マジか、こいつ知らなかったのかよ。
黄瀬が入部した直後の"あの事件"は部員の中ではそこそこ有名だっつーのに…まぁ、案外こういう話って本人知らねーもんだしな。仕方ねーか。

「うん?いいよ、触ってみる?」
「えっ、えっ?い、いいんですかっ!?」

「「!!?」」
ぼそぼそと黄瀬と話をしているうちに、部室内がとんでもないことになっていた。
お互いに向けていた視線を瞬時にそらす。さつきと染宮は部室中央のベンチに座っているようで、姿はよく見えない…が、向かい合っているようだ。
これは、アレじゃね。ヤバイんじゃね、主にさつきのほうが。

「どうっスかねぇ。桃っちもまんざらじゃないみたいだし、案外……って何してるんスか、青峰っち!?」
「何ってお前、撮影だよ」

懐から携帯を取り出して、カメラを起動。床を這うように手を伸ばして、部室の中へとレンズを向ける。
「バレたらヤバイって!確実に一ヶ月は無視されるっスよ!?」
「大丈夫だって、バレやしねーよ」
黄瀬はあたふたと狼狽えていたが、染宮の「ブラ取って生でも構わん」の声で完璧に黙った。
別にさつきの胸には興味ねーし、染宮の胸にも興味ない…が、この状況を撮影しないというのもいただけない。

細心の注意を払ってタイミングを計る。ボタンに添えた指が震えるのがわかった。
……よし、もう少しっ…!

「…何してんの、黄瀬ちんに峰ちん?」

「ぎゃあっ!?」「うげっ…!?」
突然背後から投げられた紫原の声に、黄瀬が退く。オレにぶつかる。ボタンが押される。
ぴろりん。
シャッターの切られた間抜けな音が響き、部室内の女たちが悲鳴に似た色気のない声を出した。

「ぎゃああっ!ちょ、な、何してんの、あんたたちっ!?」
「染宮っち!?ち、違うんスよコレはっ…」
「っ…きーちゃん!ちょっとどういうことなのっ!」

部室から転がり出てきたさつきと染宮だが、染宮のほうは何故か写真集を持っている。
尻餅をついた黄瀬をぎゃんぎゃんと責める二人だが、正直うっさくてたまらねえ。

「…峰ちん?これなに、オレが悪いの?」
「お前は悪いが、…そうだな。染宮の胸が小せえって話だ。気にすんな」
「なんだと、青峰テメェ!」

写真集をぐしゃぐしゃに握り潰しながら、染宮が噛み付いてくる。
耳障りな声に鬱陶しく思っていると、オレの隣に立っている紫原が首をかしげたのがわかった。
そして。

「とう」

先ほどまで菓子の袋を抱えていた紫原の長い手が伸び、まっすぐに染宮の右胸に押し当てられた。
硬直するオレたち。
ばさっ、と染宮の手から滑り落ちた写真集が床に落ちる音だけが、無人の廊下に響く。

ちょ、紫原お前。それは流石に…ねーよ。

「……うん。そーだね、別に大きくはない…けど」
完璧に凍りついた染宮から手を離した紫原が、再び菓子を食い始める。
そしてざくざくと菓子クズを零しながら、ふと床に転がった写真集に目を向けた。
「ああ、あんくらいじゃない?」指差されたのは、際どい水着姿でポーズを決める女優の写真。マジか。あのレベルなら、別に小さいってほどでも…

「………青峰大輝」
「は?」

地を這うような声に、顔を上げる。
目の前には、顔を真っ赤にして目を潤ませながら、ぶるぶると震える染宮の姿があった。
さつきと黄瀬、更に紫原の姿は随分と遠くにある。…つーか、オイ!何逃げてんだあいつら!

「いっぺん、死ねぇっ!!」

オレの鳩尾に見事な右ストレートを決めた染宮理音は、その後二週間にわたり、オレと黄瀬、そして紫原を無視し続けたのだった。
一ヶ月じゃなくてよかったっスね、と黄瀬は言うが、正直黙ってろと思う。
そして事の顛末をさつきから聞いたらしい赤司と緑間、テツまでもに虫を見るような目で見られ続けたことも言うまでもないだろう。

更にあの時撮った写真は、綺麗にブレていた。…もう、笑うことすらできやしねえ。

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