これはヤバイ、ときーちゃんが呻く。

「青峰っちと、女の子御用達なファンシーショップ…似合わなすぎて笑えるいっそ」
「かなり気色悪いな」
「きーちゃんもミドリンも容赦ないね。…確かに似合わないけど」

そめりんと青峰くんが入っていった店先から50メートル。
きーちゃんがノリノリで購入した帽子やサングラスを着用した私たちは、どっかの探偵よろしく新聞で顔を隠しつつ、店先を睨みつけていた。
…あの青峰くんをあんなカワイイ店に引っ張り込むなんて、そめりんすごいなあ。

「うぅ、中の様子が見えないっ…なんであの店ガラス張りじゃないんスかね」
「直接乗り込んで文句をつけてきたらどうだ?」
「本末転倒じゃないっスか!」

そうこうしているうちに、そめりんと青峰くんが店外へ出てくるのが見えた。
そめりんの荷物が増えている。ピンク色の、両手で抱える大きさの包みだった。

「……」「―…?」「!」
遠目に二人の口が動いているのが見える。喧嘩腰なのは変わっていない。
そめりんが青峰くんの腹を小突いた。
青峰くんが怒って、そめりんの頭をわし掴む。ばたばたと動く、彼女の両腕。

「………」
不機嫌そうなそめりんと楽しげな青峰くんが、二人で並んで歩いていく。
私達とは別方向だ。これでは急いで追いかけなくてはならない。

…追いかけて、いいのかなぁ。私が。

「…桃っち?」
「!」
あ、え、ええと。
私いま、何考えてたんだっけ。
「行くぞ、桃井。ここまで来たら最後まで追ってやるのだよ」
「…ミドリンてさ、すーごい意地っ張りだよね」
相変わらずなミドリンに苦笑して、真っ先に駆け出していたきーちゃんに続く。

そめりんと青峰くんの歩く速度は早かったらしく、追いつくのに手間取っているようだった。
私の走る速度に合わせてくれているミドリンと、とりあえずきーちゃんの背を目指す。

人の多い道の曲がり角を左折した、その直後だった。

「やっぱりつけてやがったな。黄瀬」

商店街と一変して、薄暗い上に人もいない住宅地。
私達を迎えるように立っている青峰くんとそめりんは、きーちゃんを絶対零度の瞳で見据えていた。
…きーちゃん涙目だよ、二人とも。

「ほんと最低だよ黄瀬さん。今度は私に通報されたいの?」
「ちょ…やめて!もう職質は勘弁っ…」

しょ、職質?

「つーか緑間お前、なんでこんなんに付き合ってんだよ」
「今日のかに座は外出を断ってはいけないからだ。たとえ相手が誰であろうとも、」

用件が何であろうともな。
ミドリンまでもが冷たい目をし、きーちゃんの肩身がますます狭くなる。
ううん。私はどうしたらいいんだろう。

「…まあ、別に尾行されたところで構わないんだけどね。
 緑間さんと黄瀬さんはともかく、私服の桃ちゃんに会えたのは嬉しいしっ」

青峰くんを押しのけ、きーちゃんの横をすり抜けたそめりんが私の手を握る。
にこにこと見上げてくるそめりんはとてもかわいい。
なんだ、青峰くんも女の子見る目はあるんじゃない。いっつも胸の大きい子ばっかり追いかけてるから、ちょっと不安になってたのに。

「…あのさ、桃ちゃん。私が青峰さんのために青峰さんと一緒にいるって思ってるなら、検討違いだからね」
「?」

ついさっきとは別人のような顔をしたそめりんが、踊るような軽い動きで私の手を引く。
そして緑間さんどいて、と冷たい声でもってミドリンをどかし、私を青峰くんの前へと引き立てた。

…いつの間にか、あのピンクの包みは青峰くんの手に渡っている。

「さつき。これ、やる」
「え?…な、なんなのこれ?」

ボールのように乱雑に投げ渡された包みは、とても柔らかくてクッションのようだった。
……んん?クッション?
「くだんねーことでヘソ曲げられても困、痛って!」
「アホ峰てめぇ!ごめんなさいくらい言えよ!」
「るっせーな、馬鹿染宮!お前関係ねーだろ、引っ込んでろ!」

先ほどの再演のように青峰くんを小突きまくるそめりん。
彼女の両腕をきーちゃんとミドリンがそれぞれ掴んで、ずるずると引き摺り離していく。
残された青峰くんは舌打ちをひとつして、私へと向き直った。


…楽しいことは、ほとんどあの子が持ってきてくれる。
染宮理音ちゃん。そめりん。
とても大切な、私の友達。


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ネタ提供:桃井視点で理音+キセキ
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