楽しいことは、ほとんど彼女が持ってきてくれる。

「いきなりなんなのだよ。黄瀬」
明るい商店街の見える裏路地に、私たちはいた。
至急集まって、と今朝いきなり言われたものだから慌てて出てきちゃったけど、一体なんの用事なんだろう。ミドリン超機嫌悪いし。

「緑間っち、桃っち。二人を呼んだのは他でもない、超大事な用事があるんスよ」
「大事な用事…?」

妙に改まったきーちゃんの言葉を待つ。
固唾を飲んだ彼はもったいぶって、「それは…」の後を溜めに溜めていた。
ようやっと、口が開かれる。

「染宮っちと、」
「?あれは染宮と青峰ではないか」

…え?
「緑間っちぃい!なんで言っちゃうんスか!?」
「っ…襟を掴むな!」
騒ぐふたりから目をそらして、路地の影から商店街を覗き込む。
そこにいたのは、確かにそめりんと青峰くんだった。
大きな欠伸をし、歩みの遅い青峰くんを急かしながら先導していくそめりん。
彼女の私服は久しぶりに見たけれど、やっぱりとても可愛らしい。

「ほらほら、あの二人が休日に二人っきりで会うんスよ?気になるっしょ?」
「だからと言って盗み見か。いい趣味なのだよ」
「…素直じゃないんスからー」

憎まれ口を叩きつつ、私と同じように壁に張り付いたミドリン。
きーちゃんはその様子に苦笑しつつも、青峰くんとそめりんを見ようと身を乗り出した。
…なんだか私たち、トーテムポールみたい。

「―…」「………!」

「よく聞こえないっスね…」
遠目に見える二人は、なにやら喧嘩腰で会話をしている。
相変わらず仲は良くなさそうなのに、どうして二人で会ったりするんだろうか。
「!移動するぞ」
「やべっ。追いかけないと……って、桃っち!何ぼーっとしてるんスか」
「えっ」
忍者のような速さで移動するきーちゃんに手を引かれる。
きーちゃんもミドリンも、こんなに早く走れたんだ。知らなかった。データ更新しとかなきゃ。


******


「ちょっと!一方的に呼び出しといて遅刻ってナメてんの?青峰!!」
「呼び捨てかよ」
でかい欠伸をふかしながら、のそのそと歩いてくる青峰さん。
どっかで見たな、この光景。あの時は黄瀬さんに呼ばれてたんだけれども。

「つーかお前が几帳面すぎんだよ。電話かけて15分後集合って、普通守れねーだろ」
「無理難題押し付けといて開き直らないでくれる」
15分は流石に無理だったけど18分で来たんだぞ、私は。
遅刻を毛ほども悪いと思っていない、悪いと思う必要すらわかっていない青峰さんに溜息をつく。
怒っても無駄だ。話を進めてもらおう。

「あーそうだ、この前さつきのクッションにコーヒー零したんだよ」
「それは死刑だね。頸出して」
「とりあえず聞け、鋏出すな。どっから出した、それ」

鞄に入ってたんだよ。なぜか。
しかし全く怯えていない青峰さんを脅すのも億劫なので、大人しく鋏を鞄に仕舞う。
それでな、と継がれる言葉。

「結構気に入ってたやつみたいで、あいつの態度が変なんだよ。
 だから他のもんをテキトーに買って、テキトーに機嫌とってやろうと思って」

「桃ちゃんのお気に入りクッションにコーヒー零した挙句にその暴言か!やっぱ死ね!」

しかしまあ、概要はわかった。
あからさまにやる気のなさそうな青峰さんだが、わざわざ私を呼び出したくらいだ。
多少は負い目があるのだろうし、この際細かいことはつっこまないでおこう。

桃ちゃんのための買い物だと思えば、テンション上がっちゃうしね。

じゃあとりあえずあっちの店をと言うと、とんでもなく面倒そうに青峰さんがついてくる。
もう私が選んで渡すから、財布だけ置いて消えてくれないだろうか。

「………ん?」
「?どうしたの、青峰さん」

青峰さんが突然立ち止まり、不思議そうに周囲を見渡している。
…何かあったんだろうか?

「いや…気のせいだな。たぶん」
「そう?」
「ああ。いいから行くぞ」

突然歩調を速めた青峰さんが私を追い抜く。
一瞬でも目を離せば見えなくなるような速度だった。うげっ、と喉の奥から潰れた声が出る。
「ち…ちょっと待ってよ、青峰さん!」
既に随分と離れてしまった背中を追いかける。

私のさらに後ろに、見慣れた人たちがいるとも知らずに。

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