面倒な時に私を呼ぶの、やめてくれないかな。

「…忙しかったなら、すみません」
「ううん。すっごい暇!」

申し訳なさそうに眉尻を下げたテツヤくんに、半ば泣きそうになりながら胸を張る。
理由は知らないが、最近やたらと臨時休校が多いのだ。
生徒会選挙がもめているとか、蛇籠さんよろしく精神を壊す人が多いとか、色々聞いたような気もするけど…真偽はわからない。

「休校多いって…それ、大丈夫なのかよ」
「大丈夫じゃないかもね。私も、火神さんも」
「うぐっ…!」

テーブルの前に正座させられた火神さんは、現在厳重な監視下に置かれている。
広げられた教科書。戒めのように壁に貼られた零点の答案。
火神さんが途方も無い馬鹿であることは、この部屋に入った瞬間から分かっていた。

「…それで?テツヤくん。私はまさかバカガミさんを火神さんにするために呼ばれたの?」
「ええ、そのまさかです」

難なく頷くテツヤくん。
そんな彼の後ろから、「ちょっと待って」とよく通る女の子の声が投げられた。

「黒子くん。この子が貴方の"友達"なの?」
「あ、はい」
「ふーん…まさか女の子だとは思わなかったわ」

彼女に続き、部屋の隅に座り込んでいた面々も立ち上がる。
誠凛バスケ部の人たちだ。向かい合うと身長差がかなりあって、威圧されている気分になる。

「初めまして。私は誠凛バスケ部、監督の相田リコよ」
「……監督?」
「監督」

頷く相田さん。自信に満ちた微笑みは可愛らしい。
…けど、監督か。そうか。このチームを、この相田さんが仕切ってるのか…
「まさか女の子だとは思わなかったよ」
「それさっき聞いたよ」
猫のような口をした人がけらけらと笑い、「あんたの名前は?」と無邪気に首を傾げる。
思わずテツヤくんに視線を滑らせたが、無言で頷かれた。
私の紹介は一切せず、『友人を呼ぶ』としか説明していないらしい。
変なところで横着なヤツだ。

「えーと、水槽学園の染宮理音です。
 テツヤくんとは中学の時の部活仲間で、今もそれなりに仲良しです」

「っ…中学の部活仲間!?」
「ていうと、帝光バスケ部のマネージャーか!?」

はあ、まあそうですけど。
勢いづいた誠凛の皆さんに圧倒されつつ、躊躇いながらも肯定した。
凄ぇマジか、と感嘆される。やめてほしい。入部だけなら誰でもできるというのに。

「それに、水槽学園って名門だったよな。じゃあ勉強はできるってことか」
「そこそこ」
「なら心強いわ。理音ちゃん、化学教えてあげてくれる?」

水戸部くんが帰っちゃったのよ、と相田さんは猫なで声で私に言う。
この場にいる人数は相当だが、その口ぶりからすると一人一人で教科を分担していたらしい。
化学…化学かー。別に得意でも不得意でもないな…

「大丈夫ですよ。あの青峰くんを赤点から救った理音さんならなんとでもできます」
「火神さん、馬鹿なとこまで青峰さんに似てるんだね」
「おい、好き勝手言ってんじゃねぇっ!」

哀れみの目を向ける私とテツヤくんに火神さんが身を乗り出したが、すかさず飛んできた小金井さんがハリセンでその頭をぶん殴る。
スパーン、と小気味良い音が響き渡った。
ごがん、と鈍い音も響き渡った。…ちなみに、火神さんが顔面からテーブルに突っ込んだ音である。

「火神さーん、CO2ってなんだっけ?」
「…水?」

私、帰っていいかな。
無言で首を捻り、相田さん、日向さん、伊月さん、小金井さん、テツヤくんを見渡す。
全員同時に、かぶりを振った。
私に退路はないらしい。

「うん、わかった。すごーくわかったよ、火神さん」
「は?」

小金井さんの手からハリセンを受け取り、構える。
そして火神さんが頬杖をついていたテーブルめがけて、全力の一撃を繰り出した。
かいしんのいちげき。
呆然とする火神さんが「お、お前…染宮、」と口をぱくぱくさせているけれど、それは無視だ。

私に教鞭を振るえというのなら、存分に振るってやろう。
文字通りの、飴と鞭で。

「火神さん。今夜は、寝かしてあげないからね」

火神さんが震え上がり、相田さんが目を輝かせるのが見えた。
「黒子くん、あなたの友達いいわね!仲良くなれそうだわっ」
「ええ。ボクもそう思います」
本当だよね、私も是非相田さんとは親しくなりたい。

この馬鹿をしばき倒した後に、だけど。

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