ファストフードは大好きだ。
学校帰りに立ち寄ったマジバーガーで適当に注文し、トレイを受け取る。
今日は家に誰もいない。料理をする食材もなかったから、外食したほうが早いと踏んだから。

…けど、失敗だったかなぁ。
席が空いてない。全然空いてない。見事に満席だ、どうしよう。
こんなことになるなら、鞄でも置いて席を取ってから購入するんだった…。
仕方ないし、二階席でも探してみるかと歩いた時、窓際の席にどうも見慣れた姿を発見した。
思考したのは、ものの二秒でした。

「すいません、混んでるんで相席いいですか?」
「は?ああ、別に構わ…」

ねえけど。
そう言いながら顔を上げた"火神さん"が、私を見上げて硬直する。
できうる限りの笑顔で応えてみた。
「お前…確か、海常の試合の時に会った、」
しかし効果はなかった。

「黄瀬の彼女!?」
「…火神さん、今から私はあなたを殺す」

トレイをテーブルに置きつつ、笑みを一瞬で消去した私に火神さんが口を噤んだ。
猫をかぶるのを辞めて、火神さんの向かいの席にどかりと腰掛ける。
呆然と私を見つめていた彼を一瞥すると、火神さんは実に居心地悪そうに目線をそらし、「悪かった」と呟いた。それでいいんです。

「あっと…染宮だっけ?お前、俺のこと覚えてたんだな」
「?当然でしょ」

むしろテツヤくんを除けば、誠凛で一番鮮烈に覚えている選手だ。
なんせ目の前ダンクだし。
ゴール破壊だし。
虎だし。

「青峰さんの後釜…ていうと、聞こえ悪いかな。テツヤくんの新保護者」
「どっちも似たようなもんじゃねーか」

律儀にツッコミを入れてくれる火神さんの前には、うずたかく盛られたハンバーガーの山。
凄まじい。何個あるのか知らないが、これ全部食べるんだろうか。
「ポテト食べてよ火神さん、食べきれん」
「マジか。食う」
間違えて買ってしまったLサイズのポテトを火神さんのほうへ押し出す。
私の手元では大きかったポテトの箱は、ハンバーガー・マウンテンの目前に押し出された途端に随分と小さくなって見えた。

「まあ冗談はこれくらいにしてさ。
 試合頑張ってたし結構すごかったから、目に留まったってだけ」

「…なんかムカつく言い方だな。褒めてんのか?」
「え?うん」
私としては純粋に褒めたつもりだったんだけど、『凄かった』の基準が恐ろしいほど高くて偉そうな言い方になったのは事実。
帝光中学での思わぬ弊害。火神さんには悪いことをした。

「あ、そうだ。聞こうと思ってたんだけど、テツヤくんとは仲良しなの?」
「はぁ?仲良くねーよ、全然」

即答だった。
心外そうに顔をゆがめてごちる火神さんに苦笑しつつ、オレンジジュースのストローを咥える。氷が融けていて水っぽい。

「何考えてっかわかんねーし。いつの間にか後ろにいるし、慣れねーし」
「…ああアレね。私も慣れるのに一年かかった」
テツヤくんは恐ろしく影が薄い。
それこそ同室にいても、隣に立たれても気付かないくらいに影が薄い。
いっそバスケプレイヤーより殺し屋やったほうがいいんじゃないかってくらいに薄い。

「でもね、見つけるのにコツがあるんだよ。火神さん」
「コツ?」

何個めか知れないハンバーガーを咀嚼しつつ、火神さんが興味深そうな視線を向けてきた。
テツヤくんと出会って一年と半年で私が発見した"コツ"。
自慢げに披露しようと思ったものの…えっと、なんだっけ、あれ。名前が出てこない。

「あの…すげー人ごみの中からオッサン発見する本、なんだっけ…」
「ウィーリー?」
「あ!そうそうそれ、ウィーリー!」

痒いところに手が届いた気分だ。我が意を得るって気持ちいい。

「あれと一緒だよ。人ごみの中で、常にテツヤくんを探せばいいんだ」
「常にってお前」
「不意を突かれるから驚くんだよ。終始警戒してればそんなことには、」

喋りながら、ポテトの箱に手を伸ばした。
伸ばして止める。箱の端っこをつまみあげて、中身を覗きこんでみた。
……えぇっとぉ。
「……遠慮ないね、火神さん」
空っぽでした。完璧に。欠片のひとつもありはしない。

「わ、悪ぃ。しかし日本のポテトってマジで小せーんだな、驚いたわ」
「日本の?」

妙な言い方に目を瞬くと、「俺は高校入るまでアメリカにいたんだよ」と火神さんが言う。
なんだそれ、初耳だぞ。
「アメリカいたんだ、凄いね!」
その際の私を、後に火神さんは『黄瀬と同じ反応だった』と述べる。

「…つっても、全部食っちまったのは悪かったな。しゃーねーし、今から買っ…」

「大丈夫です。ボクが買ってきました」

腰を浮かした火神さん。
その隣に座る、先ほどまで話題に上がっていた彼。
「………」
「…………」
私達は硬直した。
口を閉じるのも瞬きするのも忘れて、ただただ呆然とその場に縫いとめられた。
ずずっ、とテツヤくんがシェイクを啜る音だけが聞こえる。

「「ぎゃあああああ!!」」

ごめんなさい、火神さん。
ウィーリー戦法は、やっぱり彼には効かないみたいです。


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ネタ提供:火神と仲良し
「ウ○ーリー」にするかギリギリまで迷った

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