面倒ごとは、ほとんど黄瀬さんが持ってくる。

「なー、黄瀬。俺帰っていいか?」
明るい商店街から一本外れた裏路地で、青峰さんが大きな欠伸をかみ殺す。
あまりに気だるげなその言葉に黄瀬さんがぎゃーぎゃー喚いているが、私は青峰さんに全面的に同意する。眠い。帰りたい。

「呼ばれたから来たけど…部活ないの一ヶ月ぶりでしょ?なんの用?」
「染宮っちまで…い、いや!今日は超大事な用事があるんスよ!」

ほらぁ!と半ばヤケになった黄瀬さんが指差すのは、遠目に見える商店街。
に、立ち尽くすきらびやかな桃ちゃんだった。

「な、なにあの格好!?すご!さすが桃ちゃんっ!」
「なんとか姉妹みてーだな」
何してんださつき、と青峰さんが呟く。

桃ちゃんの装いといえば、美しくアップにされた髪と大人顔負けのプロポーションをこれでもかと強調したカクテルドレス。
似合う。すごく似合う。とても中学生とは思えない。
…んだけど、商店街でそんな格好をしているものだから、桃ちゃんものすごく浮いている。

「…さあ、二人とも。桃っちのアレを見て大体分かったと思うけど、」
黄瀬さんが言葉を切る。
そして固唾を飲み込んで続きを述べる。

「今日は!黒子っちが、桃っちとデートするんスよ!!」
「…!?」

黄瀬さんのあまりの剣幕に思わず戦慄してしまった。
背後に稲妻が見えたよ、黄瀬さん。凄いな。
…でも。
「テツにその気はねーだろ。絶対」
「黄瀬さん、それ聞きつけて尾行するために呼んだの…?最低」
「あれっ、不評!?」
当然だ。
これがもっとこう…意外性のある組み合わせならともかく、私は桃ちゃんの友人だ。
できることなら黄瀬さんをひっぺがして、思う存分楽しませてあげたい。

「ていうか黒子っち遅いな…女の子を待たせるなんて駄目駄目っスね」

女の子をこんな用事で朝っぱらから呼び出すのは駄目駄目じゃないのか。
そう呟くと、青峰さんが小声で「女の子なんてどこにいんだよ」とぼやく。
…とりあえずブーツで青峰さんの右足を踏みつけておいた。

遠巻きに「遅れてすみません」と慣れた声が聞こえた。テツヤくんの声だ。

散々言っておいてなんだが、決して興味がないわけじゃない。
青峰さんと黄瀬さんと、三人トーテムポールのごとく連なって路地の壁に張り付く。
某巨乳姉妹のようないでたちの桃ちゃんに近づく、飾り気のない格好のテツヤくんが見えた。
「私服、ダッサ!!」
黄瀬さんが叫ぶ。

「テツくん!私服も素敵っ…!」

「目ぇ腐ってんスか、あの子!?」
黄瀬さんが絶叫するその様を、青峰さんと揃って上下から見守った。
忙しいな、この人は。
「帰ろうよ、黄瀬さん。やっぱり尾行なんて趣味悪いし」
「…染宮っちは興味ないんスか?あの二人のこと」
興味ないわけないじゃないか。

「つーか、なんで俺らだよ。他にもいんだろ、緑間だの紫原だの」
「全員断られたっス」
「だろうねぇ」

さりげなく赤司さんを抜かしている青峰さんには、もうつっこまないことに決めた。

肩を落とす黄瀬さんから目を逸らし、テツヤくんと桃ちゃんに戻す。
楽しげに会話する彼らは、私達が見える位置から移動するようだった。
黄瀬さんの目の色が変わる。この人試合中ばりに楽しそうなんだけど、私はどういった反応をしたらいいんだろう。
「ちょっと!何してるんスか二人とも、見失っちゃうでしょーが!」
…ああ、無視したらいいのか。

「青峰さん、折角だしゲーセン行かない?」
「おー、いいぞ。何する」
「ゾンビ殺すやつ」

もしくは頭使うやつ、と言えば即刻却下された。当然だと思う。
壁に密着しつつテツヤくんたちを追いかけていた黄瀬さんの、「面白くなっても教えてあげないっスからねー!」という恨みがましい声を聞いたが、私と青峰さんが振り返ることはなかった。
…正直、壁にへばりつきながら中学生男女を監視する、あの残念なイケメンが知り合いだとは思われたくない。

「そういえばさー、青峰さんておっぱい大きい子が好きなんでしょ?」
ゲーセンへ向かう途中、藪から棒に尋ねてみた。
青峰さんの口から噴き出したコーラが虹を描く。なんて汚くて綺麗なんだろう。

「なんで知ってんだよ」
否定しろよ。
「部室の掃除で出てきた俗物文書、圧倒的に巨乳モノが多かったから」
「勝手にいじんな!」
そもそも部室でえろい本を読むほうが間違っていると思うんだけど、私がおかしいんだろうか。

「まあ、それはいいんだよ。
 青峰さんは巨乳が好きなのに、なんで桃ちゃんは眼中に無いのか聞きたかっただけ」
「は?だってアイツ、さつきじゃん」

答えになってねえ。
…でも、幼馴染って案外そんなものなのかもしれない。
小さい頃から一緒で、もう兄弟みたいなもんだ…とか?よく分からないけれど。

「でも私、ちっちゃい桃ちゃんなんか見たら絶対誘拐しちゃうな」
「…そろそろマジで警察呼ぶぞ、お前」

投げやりに言われたけど、多分冗談じゃないんだろう。
そして噂をすれば影、とでも言おうか。君たちちょっといい、と前方から歩いてきた二人のお巡りさんに声をかけられた。
…彼らはえらく神妙な様子で、私たちにこう尋ねた。

「近所の人から、付近に不審な少年がいると通報があったんだが何か知らないか?
 特徴は…派手な金髪で、背の高い男の子らしいんだけど」

顔を見合わせ、同時に噴き出した私と青峰さん。
通報されてるぞ、黄瀬さん。どうすんだこれ。

私達は無言で視線を交わしながら相談した。
友人として知らないふりをするか。善良な市民としてお巡りさんに貢献するか。
…まあ、相談するまでもないけれども。

私達は道を譲るように壁際に寄って、右手で先ほど通ってきた道を示してみせた。

「「あっちで見かけました」」

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