水槽学園が廃校になって、三日が過ぎた。

…だけど、まるで夢でも見てたみたいだ。
何故廃校になったか、はおろか、一学期をどう過ごしていたかさえまともに思い出せない。
気持ちが悪いというか、悪い気持ちが蟠っているような感覚がするけれども、特に気にしても変わらないと思うから忘れてしまおう。

「しかし、こんな時期に転入だなんて大変だな。あと一週間もすれば夏休みだっていうのに」

"転入先"のとある教師はそうぼやく。
全くもって同感だ。あと一週間じゃ、二学期から登校にしたほうが良かったに違いない。
「…でも、夏休み前に入らなきゃ意味がないんですよ」
「?」
教室へ向かう途中に、そう告げる。
担任らしい教師は不思議そうに首を傾げたが、それを気にする私じゃない。

「だって。一学期の間に入らないと、まともに部活動できないでしょう?」
「……?まあ、それはそうだな」

腑に落ちない様子の担任が、とある教室の前で立ち止まる。
じゃあ、呼んだら入ってきて。彼はそう言って、私を残して教室へ消えていった。

廊下へ掲げられたクラス名を見上げる。
桃ちゃんから聞いていたクラスだ。…"彼"のいるクラス。
私が転入することはもちろん知らせていないから、さぞびっくりすることだろう。

「…ふふ」
思わず笑いが漏れてしまった。危ない、危ない。
慌てて顔を引き締めた直後に、教室の内部から扉が開かれた。担任が手招きしている。
はーい、と明るい声で応えてみた。

教室に踏み入れた途端、空気が変わる。
整列された机にはひとりひとり生徒が着席していて、真ん中の列の一番後ろだけが空いている。きっと私の席はあそこなんだろう。

「はじめまして。染宮理音です」

生徒たちの正面に毅然と立って、用意しておいた言葉をつむぐ。
…興味深そうな顔をした生徒のなかに、目を見開いて呆然としている顔を発見した。
思わず笑ってしまいそうになるが、なんとか堪える。

「えと…この学校を選んだのは、バスケが強いからです。
 どうしてもバスケ部に入りたくて、中途半端な時期に入ってきちゃいました」

半分が本当で、半分が嘘だ。
バスケが強いから選んだのは事実。だけど、それだけじゃない。

中学時代、真剣にバスケに取り組んでいたみんなの姿が好きだったから。
適当に生きてた私に、この人たちに倣ってみようって思わせてくれた、あの瞬間が好きだったから。

「どうぞ皆さん、今後ともよろしくお願いします!」

…だからここから、リスタート。

前へ倣え
(やっと同じ線に、立つことが出来た)

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