ふざけんな、と私は叫んだ。

「じゃ、合宿の食事は一から十まで染宮一人が担当でよろしく」
「何が『じゃ』なのか説明してくれませんかね」

部活の休憩中に突然話しかけてきたから、何かと思えば何を言い出すんだ。

汗ひとつかいていないバスケ部主将こと赤司征十郎さんは、普段どおりの冷ややかな目で私を見下ろしている。
ええ、もう見下ろしてください存分に。そんなことはどうでもいいんだ。

「一から十までってどういうこと?誰から誰までってこと?」
「一軍から二軍、一年から三年までってこと」
「寝言は寝て言っ……て、ください!」

危ない。
主将といえども同級生だから、一応敬語は使っていない。…けれど、断言できる。
もしも私がバスケ部に関わっていなかったら、私は彼に敬語を使っていた。
絶対だ。
神に誓う。
赤司さんに誓う。

「三軍が留守番とはいえ、何人いると思ってるの!朝食の時は何時に起きれば、」
「寝なければいいだろう」
「なん…だと…?」

鬼か。馬車ウマですら寝かせてもらえるというのに、私には許されないのか。
…と、ここまで考えてから冷静になった。
一息ついて、静かに問う。

「理由を教えてほしいな。確かにバスケ部は部員も多いけど、マネージャーも多いじゃん。
 桃ちゃんは…まあ、アレだけど。他の子はそこそこできるんでしょ?」

「いや。できない」
即答ですか、赤司さん。
なんでそうまで断言できるのかと尋ねれば、「貰ったからだ」と不遜な態度で応えられた。

「調理実習で作ったらしい菓子をね。
 見た目が非常に悪かったので紫原にやったんだが、まさか紫原さえ食えない代物だったとは」

貰ったって、マネージャー全員にか。
まあ赤司さんは主将だし、ありえない話じゃない。それ抜きにしても、女子には人気があるみたいだし。

「全員じゃないよ」
「え?じゃあ桃ちゃんのは回避できたんだね、よかったじゃない」
「…いや、桃井のものは真っ先に処分した」

あの赤司さんが怯えている。どれだけ恐ろしい物体を製造したんだ、桃ちゃん。

「お前のぶんを貰ってない」
「…あぁ!」
そういえば、と手を打つ。
貰ってないといわれても、『誰かにあげる』という選択肢が私の中になかったのだ。当然である。

「そんな、赤司さん。それをずっと根にもって…!?」
「いや、俺はお前のものが欲しかったのではなく、"あと一人足りなかった"という事実が業腹なだけだ」

可愛くない。かわいくないよ、赤司さん。
どんなにゴツかろうが、私が今いる場所は中学校だ。少しくらい子供らしい可愛さを遺していたってバチはあたらないだろうに、赤司さんは恐ろしいくらいに恐ろしい…じゃなくて、恐ろしいくらいに可愛くない。

閑話休題。話を合宿の件に戻そう。

「ともかく全員は無理。せめて一軍だけとか…」
「二軍が救急搬送されてしまったら合宿の意味がなくなる」
「は、搬送前提…」

もう行かなくてよくないか、合宿。


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× 見た目が非常に悪かったから紫原に
○ 見た目が紫色だったから紫原に

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