邪魔しないで、と全力で叫びたい。

「あっ、そめりんだ!そめりーんっ!」
「わーい桃ちゃん!桃ちゃーん!」
昼休み中に会えるだなんて嬉しい。嬉しすぎる。これは運命…!
私の貧相な胸に飛び込んできてくれた桃ちゃんを全力で受け止め、無意味にその場でじゃれてみる。
周囲の人間は全く反応しない。慣れてるみたいだ。

「まったくお前ら、ほんと飽きねーな…見てて暑苦しいんだけど」
「えぇ?青峰さんには言われたくないな」

こんがり焼けおってこの青峰めが。
桃ちゃんが私に駆け寄ってきたために取り残されたらしい青峰さんは、欠伸をかみ殺しつつ私たちに近づいてくる。
「いいじゃない、別に。私そめりん大好きだし」
「私も大好きだよ桃ちゃん」
「……あー、なんかもういーわ疲れた」
失礼だな。

「つーか染宮、お前なんで女とばっかベタベタすんだ?レズか?」
「本当に失礼だなお前は」

一応否定はしておこう。
確かに私は男を遠ざけて女とべたべたするけど、決して女性に対して恋愛感情を抱いているわけではないんだぜ。
強いていうならそうだな、犬派と猫派みたいな感じ。女子派?
…自分で言ってて意味がわからん。

「男とベタベタしてるよりはマシじゃない?」
「そりゃそうだな」
「そめりんが男の子とベタベタかー、なんか想像できないなぁ」

ゆっくりと私から離れた桃ちゃんが、唇に指先をあてて思案する。
考えるのは得意だよ、とはいつ言われた言葉だろうか。
自負するだけあって、桃ちゃんの考える姿はかわい…って、え?そういうことじゃない?

「男が嫌いなのに、よく男バスのマネなんかやる気になったな」
呆れ顔でしみじみと言う青峰さん。
別に嫌いってわけじゃないんだけどね。好きじゃないだけで。
あ、それは私も気になるなあとは桃ちゃんの弁。「どうして入部したの?」と尋ねてきたのは彼女だけれども、気になるのは青峰さんも同じらしい。

「……それはね、」
大した理由じゃないけれども、笑われるのには充分すぎるネタだ。
数秒後に目の前の男が遠慮なく爆笑し、目の前の女の子が遠慮がちに爆笑するのは目に見えていたけども…まあ、聞かれたのなら致し方ない。

「入部届の締切日、ふと見たおは朝の占いで『長いものに巻かれなさい』って言ってたから」

ぶふぉ、と青峰さんが噴き出す。
ぷふっ、と桃ちゃんも噴き出す。
「な、なんだそれ!バカじゃねーの…!お前は緑間か!」
「あはは、ご、ごめんそめりん…あははは!」
ほらね、予想通り。
桃ちゃんほどじゃないけど、私の予想も結構あたるもんなんだよ。

「ふふ…で、でもおは朝の占いも捨てたもんじゃないのね」
目じりの涙を拭いながら、桃ちゃんが顔を上げる。
言葉の真意が分からずに首を傾げると、彼女は羽のような動きで私の首に腕を回してきた。
柔らかくて甘い匂いが、ふわりと鼻腔をくすぐる。

「マネやっててくれたから、こうして仲良くなれたんだもん。
 …今度から、ミドリンにちょっと優しくしてみちゃおっかな」

「っ…桃ちゃん!!」
嬉しすぎる言葉に、一瞬意識がぶっ飛んだ。
ぶっ飛んだ勢いで彼女の抱擁に応え、全力で抱きしめる。おっぱいでかいな。何食べてるんだこの子。
「そめりん大好きっ」
「私も大好きだよ桃ちゃん!」
「ああああもう、またコレかよ!いい加減にしろお前ら!」

青峰さんの切ない叫びが廊下に木霊する。
…と、その直後に鳴り響いた予鈴。抱き合っていた私と桃ちゃんは疾風の速さで離れては、「じゃ、放課後ね」「うん」と短すぎる挨拶を交わして背を向け合う。

再び取り残された青峰さんはぶるぶると震えながら何事かを呟き、「馬鹿染宮」と吐き捨てて桃ちゃんの背中を追っていった。
少なくともお前よりは頭いいっつーの、馬鹿青峰。
スッパリ離れないと名残惜しくなっちゃうものだって、どうして分からないのかな。

後日。
緑間さんの妙なラッキーアイテムかっこ笑かっことじ、に対して桃ちゃんが異様に寛容になったのに対し、青峰さんの態度が目に見えて悪化したことは、言うまでもない。

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