毎日の放課後は、半分の楽しみと半分の鬱陶しさで出来ています。

「染宮っちー」
授業が全て終わって、今のミッションは教室掃除。
机を残らず教室後方に下げ、長いホウキをモップのように扱って掃除をする。
まあ、テキトーにやっておけば大体は終わるだろう。適当に。

「ちょ、染宮っち!完全スルーは酷くねっスか!」
「あれっ黄瀬さん?いつからいたの」
「ガチで気付いてなかったんスか!?」

机で後方扉は埋まっているため、前方の扉から入ってくる金髪の男子生徒。
そんな驚かなくても、気付くわけないじゃない。
私に気付いてほしかったら拡声器で喋るか直接触るかしろってんのよ。まあ触ったらぶん殴るけどね。こいつの場合顔を殴ったら大問題だから、バレないように体…それも下半身とか…

「あ、あの。下半身の凝視は…さすがに照れるというかまだ早いというか」
「頬染めないでよ、でかい図体して気色悪い」
「…」

こてりと肩を落とし、まあいいっスよ慣れてるしと自虐的に呟く黄瀬涼太。
「それで、何の用なのかな」
トン、とホウキの先を床に立てる。
その音で我に帰ったらしい目の前の黄色は、「特にどうってワケじゃないけど」と言葉を継ぐ。

「染宮っちの教室近くにいたから、部活一緒に行こうかなーと。駄目?」
「ヤだ」
「やっぱり!」
「机運ぶの手伝ってくれたらいいよ」
「……じゃあいいや。先行ってるっス」

なんだそれ!お前マジ何しに来たんだ!
…って本当に先行きやがったし!黄瀬さん意味わかんねえっ!
「ちょ、ちょっと待ってよ!折角来たんだから連れてけっての!」
ホウキを投げ出し、廊下に身を乗り出す。
私の声に二メートルほど進んでいた背はぴたりと止まり、意味ありげな瞳が振り向いた。

「一緒に行ってくれるんスか?」
お、応ともよ。
いや私は黄瀬さんなんか別に好きじゃないんだけど、わざわざ迎えに来てもらったわけだし。
手ぶらで帰らせるのも私の自尊心的な何かが傷ついちゃうから、仕方なく…しかたなく、仲良く一緒に部活に行ってあげようと思ってですね!

「だからっ、掃除終わるまで待ってて!絶対待っててよね!!」

返事を待たず、身を跳ねさせるようにして教室へ戻る。
机運ぶだけだし部活行ってもいいのに、と笑う友人に苦笑して、窓際の机を両手で持ち上げる。
部活行ってもいいのにだなんて、なんて殊勝なことを。
できるわけないじゃない。…ただでさえこの教室三人しかいないのに!

「まったく、サボるなんていい度胸だよね。
 けど文句言っても仕方ないし、黄色いのも待ってるし、さっさと終わらせ…」

「終わったっスよ」

すぐ傍から聞こえた声に驚いて、友人とともに仰け反る。
そこには実に楽しげに笑う"黄色いの"。
「ぁ…え?早っ!つかなんで!?」
「いやぁ、だってオレが手伝ったほうが早く部活行けるし」
頑張ったんスよ、と嘯いた黄瀬さんが身をのける。
その後ろには、確かに並べられた机の数々があった…んだけど、どうも並びがバラバラというか、粗雑である。

「…ねえ黄瀬さん。机、どーやって運んだの?」
「うん?一番簡単な方法っスよ」

友人が黄瀬さんに見えないようにこっそりと机の位置を正している。
運んでくれたのは有り難いが、明らかにいらん手間が増えた。この野郎。

「一番奥にあるのを押して、一気にガガガッと…」

「ば、バカ!床に傷ついたらどーすんの!?」

「大丈夫っスよ、バレないから!」

「私にバレたわ!今すぐ直すからそこどいて!」

黄瀬さんをどかそうとは思ったものの、もう仕事はなくなってしまったらしい。
友人二人が手を振りながら廊下へ出て行ってしまったのを見送ってしまえば、空っぽの教室に取り残されてしまった。
「あはは、染宮っち恥ずかしい」と楽しげに笑う黄色が憎たらしい。爆発してほしい。

「でもオレ、染宮っちのそういうとこ嫌いじゃないっスよ」
「…私は黄瀬さん好きじゃないけどね」
「ひ、ひどっ…」

肩を落とす黄瀬さんの傍をすり抜けて、教室を出る。

私は黄瀬さんが好きじゃない。
だけど隣に感じる存在感とか、そういうのは別に、…嫌いじゃない。

「あー、でも一回引いてみて正解だったっスね!押して駄目なら引く、って迷信だと思ってたけど…やっぱり染宮っちが分かりやすいからかな」
「ぶっ飛ばすぞテメェ」

嫌いじゃないだけで、鬱陶しくはあるんですけどね。

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