高校受験って面倒臭いよねぇ。

いくら高校を選ぶのは自由だって言っても、
このへんから通えるところなんて八十神高校しかないし。
あそこ何気に偏差値高いし。

落ちたら毎朝五時六時起きでバスやら電車だよ?冗談じゃない!

というわけで。

勉強中です。


「完ちゃん、そこ間違ってるよ」
「んがっ!…つかお前、完ちゃんはやめろって言ってんだろ!」


目の前でやけくそになりながら消しゴムを動かすのは巽完二。
お隣の染物屋の息子で、同い年。一般的な幼馴染っていうやつです。
こいつもこいつで早起きは御免らしく、八十神高校を受験するらしいんだけど。

いや、これはちょっと厳しいかもしれんぞ。

「一次方程式まで間違ってんじゃん…"b"と"d"逆だし」
「ううううっせーな!」
「うっさくしないとやらないでしょ!」

このやりとりが続いて早三時間。
外はすっかり日が暮れて真っ暗である。


「お前、もういいから帰れよ。集中できねーだろ」
「はぁ?誰のために来てやったと思ってんの」


だいたい隣なんだから、最悪窓からでも帰れるっつーの。

いいからつべこべ言わずに問題解きなさい!見てあげるから!

そのまま騒がしく、時折静かに勉強を進める。
…けど、私に至っては間違いだらけの完二が気になって全然進まない。
でも教えたところだけはきちんとできている。
教えがいはあるんだけど、流石に教師じゃないから全面カバーは無理だぞ…


「美咲ちゃん」


突如開いた襖に目を向けると、背筋を伸ばして立つ和服の女性。
言わずもがな、完二のお母さんである。
いいなあ、といつも思う。綺麗だし優しいし。
私の母さんとは大違いだ。


「晩御飯作ったんだけど、どうする?」
「いただきます!」


背後から安堵の声が聞こえた。
中学に入った頃から用意される食事の量が極端に増えた巽家は、
毎日のように完二の胃へ大打撃を与えているのだとか。

…私がいたとしても総量も増えてるだろうから、意味ないと思うんだけど。

完二、大丈夫かなあ。


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