「折角受かったのに入学式フケやがったよあいつ。
私の労力はなんだったの。私の時間は一体なんだったの?」
「でもあいつ、中学もまともに来てなかっただろ。今更じゃん」
「なんか納得いかない」
あれから二ヶ月ほど経過し、四月。
無事八十神高校に入学できたはいいものの、あの野郎。
「つか美咲は家隣りじゃん。迎えに行ってあげたら?」
「嫌だよ。そんな幼馴染みたいな真似」
「幼馴染じゃん」
あきれ返った様子で的確なツッコミを返すのは、小西尚紀。
完二がお隣さんなら、斜向かいさん?にあたる酒屋の息子で、
まあこいつも幼少期からの知り合いである。
つーかこのクラス、全然目新しくない。
だいたい八割は知り合い。
で、全体数の一割くらいは保育園からの馴染みだったりとか。
つまんないなー。
先輩のほうも大方知り合いばかりだし。
こういうのも田舎ゆえだろうか。都会への憧憬は特にないけれど、
面白みがあるって点ではちょっと羨ましいかもしれない。
唯一と言っていいほどの初対面である担任教師の話を終え、
ようやっと帰宅という時だった。
何やら緊迫したような声で、その場に待機との宗を伝えられたのは。
「事件っ!?」
「わ、パトカー超走ってるよ!」
放送を聴いてすぐに窓に張り付いた生徒たちの声。
『学校付近で事件が起きたから、しばらく教室で待っていろ』。
確かに興味をそそられる内容の放送だった。
「ねえ尚紀、事件って…」
窓に向けていた目線を戻すと、尚紀は通話中だった。
なんだ。じゃあ静かにしていたほうがいいな。
口ぶりからして、相手は多分尚紀のお母さんだろう。
「うん、学校。出るなって言われた。
…は?姉ちゃんが?…あーうん、うん…わかった」
電話を切った尚紀は実に複雑そうな顔で、私を手招きする。
普通に従うと、周りを気にしてか、ふいに耳元に顔を寄せられた。
「殺人だって」
予想はしていたものの、やはり驚いて小さく声が出る。
殺人。殺人ね。この街でそんなことが起きたりするものなのか。
「なんか電柱にぶら下がってたらしくて…姉ちゃんが見つけたんだって」
「え、早紀さんが?」
「うん。で、やっぱり心配だから早く帰ってこいって。…無茶言うよな」
周囲を見渡すと、未だ騒然としている。
入学式早々ついてないな。早く帰って遊ぼうと思ってたのに。
結局、退室した担任が帰ってきたのは二十分後。
事件についての詳しい状況は、微塵も伝えられなかった。
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