「ぶっ、…く…!はは、あっはははははははは!!」


爆笑を耐えた時間は、恐らく十数秒。
舞台に立っているのもひどかったけど、眼前にいると破壊力が桁違いである。

教室中に響くほど笑い、腹を抱える私を見下ろす目が多数。
特に花村さんなんかは虚ろで淀みきった、とても人間とは思えない表情で、
静かに涙のあとが残る目元を擦っている。


「てっめぇ美咲!笑いすぎだろうがっ!!」

「ちょ、やめてー!こっち来ないでッ…あはははははは!!」


私の胸倉を掴んで凄む幼馴染の憐れな有様に、思わず笑い死ぬかと思った。

元々大柄で、褒める言葉の80%を女性と共有できない容姿の完二が女装となると、
まあ、どう頑張ったとしてもこんなもんなのかもしれない。
しかしそう思う反面、いやもっとやり方あっただろ、という考えも捨てきれない。
結論を出すと。
超ひどい。


「まあ、盛り上がりはしたんで委員会としては万々歳ですけどねぇ」


多少落ち着いた頃合を見計らったフォローへ入る。
そもそも私がこの部屋を訪ねたのは、俗に言う"参加賞"を渡すためであって
決して写真を撮ったり個人的に笑いものにするためではなかったんだ。

スカートのポケットからハンカチを取り出し、笑いすぎて滲んだ涙を拭う。
そしてハンカチを戻すのと同時に持参したデジタルカメラを取り出して、
短すぎるスカートの下にジャージを履こうと片足を上げていた花村さんを激写する。

「…」

唖然として、埴輪のごとく口をあける花村さんをよそに、
デジカメの小さい画面を覗いて写真を確認する。うん。よく撮れてる。
きっちりと保存をしてから再び画面を戻し、先ほどから黙って様子を見守っていた
スケバン姿の鳴上さんへ向き直った。


「悠ちゃん先輩、写真いいですか?」

「待てこらあああああああああああぁっ!!」


絶叫とともにカメラを奪おうと飛び掛ってきた花村さん。
身体をその場で回転させてかわし、その動作のまま蹴りを入れる。
まるで流れるような蹴りだったと、後に完二は語った。

顔面から床へ突っ込んだ花村さんを無視して、
何故か異常なほどスケバンスタイルが似合う鳴上さんへ視線を戻す。

彼…ああいや、彼女?は驚くほどたおやかに微笑み、
「どうぞ」と竹刀を持って自然なポーズをとった。なんて男らしいんだろう。


ありがたく何枚か撮らせて頂き、時計を見る。
うん。ちょっと急がないとミスコンの時間に間に合わないかな。


「じゃ、これは参加賞です。置いときますね」

「参加賞?なんだよそれ」

「普通にお菓子ですね」

「美咲の家の?」

「まさか」


ジュネス特売品です。
袋の中の菓子を覗いて昨日の売れ残りじゃねえかと叫ぶ花村さんと、
菜々子にあげようと喜ぶ鳴上さん。完二は嫌いな菓子を次々に私のポケットへ突っ込み。

あれ、そういえば。
クマはどこへ行ったんだろうか。


「ああ、クマならミスコンの打ち合わせがあるとかでいないぜ」

「はあ、打ち合わ…」


その後。時計を見たと同時に、私は走り出した。

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