高校一年で修学旅行って珍しいよね。


「王様ゲーム!!」


異常なほど赤い顔のりせが立ち上がり、高らかに宣言する。
同様に赤い顔の雪子さんが続いて立ち上がり、奇声を以って応えた。
彼女らと裏腹に青くなっていく、千枝さんと花村さんの顔面。

何故かいるクマはきゃいきゃいと楽しそうにはしゃぎ、
虚ろな笑みを浮かべた鳴上さんはひたすら完二に絡んでいて。
私の隣の直斗は、いたって無表情。

もうやだ。帰りてえ。


説明が遅れたけど、場所は巌徒台。
ポロニアンモールに在る人気のクラブ、"エスカペイド"のVIPルームです。


りせの馴染みの店らしく、快く貸してもらえたまではよかったんだけど、
出された料理と飲み物で見事にぶっ飛んだ人間が数名。
…これ、本当に酒なのかな。違うと思うんだけど。


「おらあ、美咲!割り箸、持ってこぉい!」

「あ痛たたた!痛い!痛い!持ってくるから離して!」


よりにもよって私の前髪を掴むりせ。痛い!マジで痛い!
花村さんが慌ててりせをなだめる中、彼女の前に跪く人影。鳴上さんだった。
綺麗にそろえられた割り箸をりせに差し出している。
…のはいいんだけど、なんでシャツの前開けてるんだろう。

「悠せんぱい…」

恍惚とした顔のりせが、恭しく捧げられた割り箸をひったくる。
さあ引いて、と突き出された割り箸。もうどうにでもなれ。


そう思って色々放棄したことが、悪夢の始まりでした。

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