事件の影響か、人通りは去年より少し寂しい。
けど、まあ娯楽と行事の少ない稲羽です。
この神社にここまで人が集まるのってそうそうないですよ!
「お。春日部さんじゃん」
「今年も頑張ってんなあ」
僅か十数メートル先から出張してきた和菓子店の屋台を前に、
立ち止まってくれた男子高校生二人組。
運動部のアイドルこと一条康さん、長瀬大輔さん。
この二人は幼少期からの腐れ縁だとかで、毎年毎年こうして
二人で夏祭りをひやかして歩いているんです。
彼女作れよ。二人とも気持ち悪いくらいモテるのに。
「あー、でも長瀬さんはともかく一条さんは…」
「ちょっ何?何、その目?」
「白々しいぞ一条。春日部のことだし、気付いてんだろ」
にやにやしながら一条さんの肩を叩く長瀬さん。
真っ赤になりながら騒ぐ一条さんだけど、まあ、残念でした。
ばればれでーす。
気付いてないのは本人と雪子さんくらいだと思いますよー!
「一条さん。団子、五本で千枝さんボイスのサービス入りますよ」
「いっ…!…い、っらねー!そんなむなしい真似はしねー!!」
「じゃあ、俺が五本。いくらだ?」
「三百五十円です、まいどあり。そうですね、じゃあ」
「ああああああああ」
泣いちゃったよ。
長瀬さんに渡した団子をひったくった一条さんは、
ヤケになってそのうち一本を口に含み。
そして咀嚼しながら、簡易な木製の台に千円札を叩きつけた。
わーお、リッチマン。
俯いたままぶるぶると身体を震わせていた一条さんは、顔を上げ。
真っ赤な頬と瞳で私を睨みつけて、言いました。
「さ、っと中…さんのは、いい。代わりに長瀬ボイスで、面白い台詞を言え」
オッケーわかりました。
お安い御用です!
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