鳴上さんが時々話しかけてくれるようになった。
初対面の頃はともかく、現在ではすっかり有名人の彼である。
尚紀も仲良くしてもらってるって嬉しそうに言ってたし。
完二も懐いてるし。
松永さんは部活が一緒だとか言ってた。
なんだろう、凄みがある?っていうのかな。
こっちの意思を尊重してくれるんだけど、最終的には逆らえないっていうか。
とにかく凄い人だと思う。
「ああ悠くん。こんにちは」
「こんにちは」
「鳴上じゃん、また明日なー」
「ああ」
学校を出てからずっとこんな調子だ。
どこを歩いても誰に会っても、鳴上さんに声をかける。
最低限の返事しかしてないのに、邪険にする気配は微塵もない。
とんでもない人だ。
人間の尺度で測っていいのかと不安になる。
「…美咲?」
「あ、はい。すみません」
随分と黙り込んでいたみたいで、
鳴上さんの心配そうな目で見下ろされていた。…うわ、すごい恥ずかしい。
「鳴上さんはすごいなって思ってただけです」
基本的に口数の少ない鳴上さんは、不思議そうに首を傾げる。
そして目線を正面に戻した後、あ、と面食らったような声を出した。
「菜々子」
釣られて視線を向けると、そこに立っていたのは小学生の女の子。
髪を低い位置で二つにまとめ、ピンクのワンピース姿。
幼いながらも利発そうな面立ちの彼女は、鳴上さんを見て表情を綻ばせた。
「お兄ちゃん!」
軽い足取りで駆け寄ってきた彼女は、鳴上さんの足にしがみつく。
そして無言で目を瞬く私へ、恥ずかしそうに頭を下げた。
か、か、かっ…!!
「…い、いも…妹さんですかっ、鳴上さん!」
「え?いや、従妹だけど……どうしたんだ美咲」
「ぐあい悪いの?」
か、かわいい…!
従妹かぁ羨ましい!私、いることにはいるらしいけど全部年上だし!
いいなあ鳴上さん、お兄ちゃんだっておにいちゃん!
「はじめまして、菜々子ちゃん」
極力人当たりの良い笑顔を浮かべ、目線をあわせるためにしゃがみこむ。
不審者じゃないよー。こわくないよー!
「は、はじめまして。堂島菜々子です」
恥ずかしそうにはにかみながら、小さく頭を下げる菜々子ちゃん。かわいい。
そっか、なるほど。
鳴上さんの面倒見の良さってこの子から来てるのかもしれない。
鳴上さんは学校とはまた違う笑顔で彼女と談笑し、
友人の家に行くという彼女に手を振った。
美咲おねえちゃんだって!
「鳴上さん」
「ん」
菜々子ちゃんの背が見えなくなるまで見送った頃を見計らって声をかける。
振り返った鳴上さんは"優しい先輩"の顔になっていた。
切り替え早いなあ。
「やっぱりすごいですね、鳴上さんは」
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