行方不明になっていた完二は、三日ほどして帰ってきました。

目に見えて疲れている彼の肩を支える花村さんは、
そのへんで拾ったと言って笑い。

涙を浮かべて叱咤するおばさんと、小さくなる完二の身体を見て
ひとしきり笑ったあと、手を振って去っていきました。

…ああ、訂正です。
和菓子の入った袋を振り回して、去っていきました。

四人ぶんだからかなりの量があったはずだけど、まあいいよね。
ただのお礼。

状況はわからないけど、きっと完二は助けてもらったんだと思う。
ありがとう、先輩たち。
…完二を助けてくれて、ありがとう。


「じゃあ水羊羹と豆饅頭、苺大福をふたつずつお願いします」

「はい。ありがとうございまーす」


店先で細い指をさすお客さんは、見慣れない人物だった。
小さい。帽子が特徴の、中性的な…女の子、かな?たぶん。

硝子ケースから指定されたものを取り出し、別個に包装して袋に入れる。
値段を言うと、静かに千円札が台の上へ乗せられた。
機械的に釣りを差し出したものの、彼女(仮)は一向に受け取る気配がない。

…んー?
「あの、お客様?」首を傾げるのとほぼ同時に、その形の良い唇が動かされた。


「春日部美咲さん」


声まで中性的だ。男にしてはやや高く、女にしては低い。
だけど全く不快でも不自然でもなくて、心地よく耳に残る声。
不思議な人だとなんとなく思った。

「僕は白鐘直斗といいます。少しお話を伺ってもよろしいですか」

白鐘さんは周囲を見渡し、人通りが少ないことを確認してからそう言った。
確かに今は客がほとんど来ない時間だった。
少しだけなら、と答える。
彼女(仮)は薄く微笑むと、それで構わないとばかりに頷く。


「お隣の染物屋…息子の巽完二さんのことですが」


視線を心持隣へ傾け、「お知り合いですよね」と問う。
断定的というか、質問よりも確認に近い口調だった。
素直に頷くと、白鐘さんはさして気に留めた風もなくに言葉を紡ぐ。


「先日、何日か行方をくらませていたようですが。以前にそういったことは?」

「以前…ううん、なかったと思います」

「では、失踪中に彼がどこにいたか、心当たりは?」

「ありません」


恐らく花村さん達なら知っているだろう。
だけど、私はそれを言わなかった。何故かはわからないけれど、
白鐘さんに話したら花村さん達に迷惑がかかりそうな気がしたから。

なんだかなー。

「………ありがとうございます」

ひとしきりの質問を終えたのか、白鐘さんは手帳から顔を上げる。
そして台の上に置いてあった小銭を取ると、菓子の入った袋を持ち上げた。
どうも納得はいっていない様子だけど、仕方ない。
私だって何もわかってないんだから。

「あの、白鐘さん」

立ち去ろうとしていたその背に声をかける。
端正な顔がこちらを向き、不思議そうに髪が揺れた。

「白鐘さんは、刑事さんなんですか?」

思ったよりもずっと間抜けだっただろうその声に、彼女(仮)は破顔し。
恐らくここに来て初めてだろう、笑顔を浮かべて。
いいえ、と柔らかく否定した。


「僕は、探偵です」


その顔を見て、確信した。

人のいない商店街へ歩み出る彼女の背は、あまりに毅然としていて。
不思議な人だなあと、再び私は思うのでした。


= = = = =
次からあとがき的な


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