「暑い」
「暑いな」
「暑いわね…」
「あーつーいー」

場所はストラタ、そして砂漠。
口々に現在の感想を述べたのち、四人揃って深々と息を吐く。
息を吐いた後は勿論息を吸わなければならないのだけど、吸った息がまた熱い。肺を蒸されるような不快感にがっくりと項垂れた。なんという悪循環。もういい加減にしてほしい。
「情けないな。お前たち」
半ば死に掛けている私たちを見下ろして、教官が辟易したように首を振る。

「なんと言われようと、暑いものは暑いですよ」
「俺、ウィンドルから出たことがなかったので…砂漠の暑さって尋常じゃないですね」
オル・レイユ港で買った外套のフードを除けるようにしながら、アスベル先輩が息をつく。悪循環だと分かっていても、溜息しか出ないのだ。気持ちは痛いほど分かる。実際に痛いし。

「ソフィ、大丈夫?ケロッとしてるけど…」
「平気」
同様に疲れきったシェリアが、教官と同じく足取りのしっかりしたソフィを案じる。しかし彼女は汗も禄にかいておらず、本当に元気そうだった。羨まし…くはない、かな。やっぱり彼女、少し変わっている。
「ここまで元気って凄いよね。ソフィってストラタの人間なのかな?」
「どうかしら…」
否定こそしないものの、あまり気乗りしていない返事だった。
ソフィの記憶について、詳しく知っているのは言うまでもなくアスベル先輩とシェリアだ。そのシェリアが渋るのだから、きっと違うんだろう。私が首を突っ込むべきでない気もするし。
話題を変えよう。

「そういえば、覚えてる?セイブル・イゾレで聞いた話」
「ロックガガンのこと?あたし、ちょっと楽しみなんだよね〜」
「あ、ほんと?私も会ってみたいなーって思ってたんだ」
若干生気を取り戻した様子のパスカルと、未だ見ぬロックガガンの姿へ思いを馳せる。
街道で暴れるなんて凶暴そうだが、住民からあの人気だ。可愛いんだろう、多分。丸いのかな、柔らかいのかな、強いのかな。そんな他愛無い談義を繰り広げている私たちへ、シェリアが叱咤を加える。

「もう!可愛かろうがなんだろうが魔物は魔物よ?会いたいなんてどうかし―…」

その時だった。
激しい地鳴りと、足元が大きく揺らぐ。「地震か!?」アスベル先輩がソフィの身体を支え、私はパスカルの手を掴む。明らかに震源地と思われる方向へ全員が目を向けると、そこには灼熱の太陽を多い隠さんばかりの大岩があった。
大岩。違う、あれは。

「ロック…ガガン……さん?」
「ろ、ロックだわ…」
「ががーん」
「ううん、あの大きさは予想外かも〜」
パスカルが暢気に笑って頬を掻いた時。山ほどの巨体を持つロックガガンはまっすぐにこちらへ突撃し、あまりに大きすぎる、赤い口内を見せ付けた。
「う、うわあああああああっ!?」
誰の絶叫だったかは分からない。
とにかく"地面ごと飲み込まれる"という前代未聞の感覚を味わった私は、いとも簡単に意識を手放してしまったのだった。


そして、どれ程の時間が経ったかは分からないが。
「リドル…リドル!起きろ、リドル!」
仰臥した体を揺さぶられるのと、耳元で連呼される名に目を覚ました。「…アスベル…先輩?」ゆっくりと身を起こし、すぐ傍にしゃがみこんでいたアスベル先輩へ声をかける。
彼が安堵したように微笑むその後ろで、私と同じように意識を失っていた仲間達が次々と身体を起こしていくのが見えた。
痛みはない。痺れのような頭痛はあるものの、簡単に立ち上がることができた。

「せ、先輩…ここ、まさか…」
「ああ。…多分、そのまさか…だと思う」

薄暗い景色をざっと見回す。切り取られた砂漠が点々としている他は、ゆったりと波打つ謎の液体。すぐ横の壁は確かに肉の質感を持っていて、独特の感覚で律動していた。
「ふむ。どうやらオレたちは、奴の腹の中にいるようだな」
冷静すぎる教官の声にシェリアが驚愕して後ずさる。薄暗くても分かる、シェリアは砂漠を歩んでいた頃よりずっと顔色が悪い。

「いやぁ、いくらなんでもここまで大きいとは思わなかったよ」
「パスカル、楽しそうね…」
陽がないだけ外より涼しいね、でも景観がよろしくないね、ていうか臭いね。気の抜けるような会話を交わす私とパスカルに、シェリアは涙目になりながらツッコミを入れる。めまぐるしく切り替わる言葉にソフィの意識は離れたのか、ふらふらと輪から外れた彼女は何の気なしに、手元にあった岩のようなものに触れた。
糸を引いた。
ねばぁ、っと。糸を引いた。

「ねばねば…」
「いやああぁっ、なにこれぇ…!」
「胃の中ってことは、…胃酸かな?」
あっけらかんと言い放ったパスカル。その言葉には、流石に軽口を返す気になれなかった。胃酸。すなわち酸である。周囲に地面が残っていることから、ロックガガンの胃酸は然程強くなさそうだが、急ぐことに変わりは無い。
…尻から出るのは、私だって嫌だしね。

「シェリア、泣かないで」
教官やらパスカルやらに面白半分でからかわれ、ついに泣き出したシェリアをソフィが慰めている。右手で。…あれ、右手?
さっきソフィがねばねばさせてたのって、どっちの手だったっけ?
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