「「魔神剣!」」
アスベル先輩と声を同じくして、剣を振るう。斬撃によって生まれた衝撃波は、直線の軌道を描いて魔物へと向かっていく。
後衛のパスカルと教官以外は見えていなかったらしい魔物は、背後より直撃した攻撃で吹き飛ばされ、苦悶の断末魔ののちに絶命する。
綺麗に片付けられた街道。無傷の大剣を血振りのように払い、簡単に布で包んでから抱えなおす。

「みんな、お疲れさま。水飲むかしら?」
「あ、あたし欲しい。ちょうだい」

傍で控えていたシェリアが、すかさず治療と補給のために歩み寄る。
真っ先に飛び出したパスカルとそれに続いたアスベル先輩、そして教官。さして消耗していなかった私は、多少の距離をもって欠伸をかみ殺した。
「…ねえ、リドル」
「ん?」
控えめに私の服を引きながら、ソフィが私を見上げる。
不思議そうなまなざしに首を傾げると、彼女は私から目を逸らして手元へ向けた。「それ」その先にあるのは、申し訳程度に包まれた剣。

「リドルの剣、すごくおっきいね。強そう」
「え、本当?ありがとう」

純粋な賛め言葉に表情が綻ぶ。微笑んだ私を真似るようにはにかんだソフィはとても可愛らしい。道中シェリアに聞いたのだが、ソフィは親しい人間の言動やら戦術やらを積極的に真似る癖があるのだとか。彼女とは二日三日の付き合いである私だが、少なからず『親しい』くくりに入れてもらえているのかと嬉しくなった。

「そういえば、前から聞きたかったんだが」
補給を終えたらしいアスベル先輩が、ソフィ同様不思議そうな顔でこちらへ歩み寄る。それも私の手元を指し示す動作まで彼女そっくりなものだから、人知れず噴き出してしまった。
「リドルは小柄だし、大剣なんか使いづらいんじゃないか?どうしてそんな得物を選んだんだ?」
「……あ、ああ…うん、それは、ですねえ」
澄み切った疑問に言葉を濁す。視界の端で教官のにやけ顔を確認した。
…以前、教官にも訊かれたのだ。何故身の丈に合わない武器を選んだのかと。
そして私は答えた。なんの疑念も抱くことなく。
結果、一週間ほど笑われた。

「…大剣を選んだ理由はね」
渋りに渋った挙句に話しだす私。その語調が優れないことに、先輩は気付いたらしく笑顔が凍りついた。「べ、別に話したくないなら…」今更すぎる妥協の言葉を虚ろな笑みで受け流す。ソフィは勿論、パスカルやシェリアまで聞き耳をたてているのだから止められるわけがない。話題に飢えた人々である。

「片手剣が強いから、大剣はもっと強いだろうって、思ったからなの」

場が凍りついた。
シェリアが申し訳なさそうに笑い出すのを視認し、ソフィ以外の全員が各々の形で爆笑するのを視認する。教官に至っては二度目なのに笑っている。失礼この上ない。
「あ、あのさ!一応言っておくけど、子供の頃だから!十年くらい前だからっ!」
「わ、わかってる…わかってるよ、…!」
「笑いすぎ!もう、戦力になってるんだからいいじゃないですかどうでもッ!」
歯噛みしながら喚く私に煽られるように笑い続ける一同。予想以上の事態に気疲れし、悄然とした私の肩に、ソフィの右手がぽんと置かれる。同情までされた。死にたい。

「ああでも、昔ヒューバートも似たようなことを言っていたな」

目じりに浮いた涙を拭い、爆笑の余韻を残した先輩が顔を上げる。
「ヒューバートって、アスベルの弟くんだよね?」
パスカルが首を傾げると、先輩は懐かしげに頷いた。その横顔がどこか萎んだように見えるのは、今後のことを案じてだろう。
聞けば先輩、一度は故郷から追い出された身らしい。
その故郷の監督を担う実弟だ、今日ないし明日には意見を衝突させることになろうことは容易に想像がつく。

「棒切れを二本武器にして、『二本だから二倍強い』って。おかしいだろ?」
「…アスベル、それを言ったのはヒューバートじゃなくてあなたよ?
 『二本だから二倍強い、だから弱いお前は二本持て』って」
「……え。そ、そうだったか…?」
「そうよ」

呆れたように囁いたシェリアに、先輩の顔色が変動した。
「なんだ、先輩私のこと笑えないじゃないですか」顔を背けて呟く私。パスカルに至ってはにこにこ顔で「ちっちゃいアスベルはなかなかヤンチャだったんだね」と楽しげである。
「…アスベル」
途中から蚊帳の外状態となっていたソフィが、ぽつりと呟く。

「ちっちゃいアスベル…やんちゃ…」

昔を思うような、独白に近い声だった。彼女らしからぬ声音に首を傾げる。
そういえば、彼女は本当に謎が多い。
戦術の話題だって、力任せに振り回す私の剣技と違って彼女の体術は一朝一夕で習得できるものではない。
大剣を使う理由なんかより、彼女の遍歴について訊いたほうが良かったんじゃないかとすら思う。…とのことを、湾曲に濁して教官に伝えてみた。
「笑われたからと言って拗ねるな。お前のいう通り、戦力になっていれば関係ないだろう」
鼻で笑われた。ちくしょう。いつか絶対に復讐してやる。
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