ウォールブリッジで捕縛されてから数日後。
セルディク大公の敗北とリチャード殿下の華々しい勝利の報せは瞬く間にウィンドル国じゅうに響き渡った。
しかも勝利より間をおかずに即位まで行ってしまったのだから、国内は戦いの時とさして変わらないような勢いでお祭り騒ぎである。

そして。
大公に加担した騎士団は、新たなる秩序に置いて害物と判断されたらしい。
重役の者は軒並み重罰ないし処分を受け、政治の面でもウィンドル国は今後それなりの混乱に見舞われてしまうことだろう。
当の私はといえば、一介の学生であること、父兄が"陛下"とともに戦場を馳せたこと(やっぱり混じってたのかよ)、更にアスベル先輩に絆されたことなどから、ほとんど無罪だった。
無罪だったんだけど。

「いかなる場合も課せられた任務を厳守してこそ騎士である。
 敵の下へくだるなど言語道断、…どうやら君に、騎士としての資質は薄かったようだな」

目一杯の侮蔑と、雀の涙ほどの憐憫を見せた騎士学校の重鎮はそう言った。
結果。


「改めましてリドル・ヘスティアです、その節はお世話になりました。
 先日騎士学校より強制退学を命じられ、現在プー太郎であります」

「「………」」


釈放直後、バロニア城に滞在していたアスベル先輩たちのもとへ駆け寄る。
自虐的に笑いながら敬礼する私へ、数多の胡乱な視線が投げかけられた。あはははは泣いてなんかないよ、無職なのは私だけじゃないからね!
「意味ありげな視線を向けるな、リドル。オレに言いたいことがあるのか?」
「いいえー」
地位剥奪といった罰を受けた上で、私と同時に釈放されたマリク"元"教官を見上げる。
鋭利な眼光を以って返されたが無視する。教官と生徒という殻が崩れたのだ、ここにいるのはただの17歳無職と40歳無職に過ぎない。

「話が逸れましたが、」

わざとらしく咳払いをしたのち、眼前で私と教官を見つめる四人へ目を向ける。
「先輩がた、ラントへ行くんですよね?だったら、」
「オレたちも同行させてもらえないか」
台詞を取られた。恨めしげに元教官を見上げれば、あいも変わらず涼しい顔。私の姿など視界の端にも入れていない様子であった。

「二人が来てくれたら、心強いです。俺からもお願いします」
「決まりだな。受けた借りは、旅の途中で存分に返させてもらう」

嬉しそうに会話をする男二人を差し置き、私は先輩の傍らに控えていたシェリアさんへ向き直った。「これからよろしくお願いします。シェリアさん」小さく頭を下げた私に、シェリアさんは満面の笑みを以って返し、同様に頭を下げた。

「リドルと一緒に旅ができるなんて嬉しいわ。よろしくね」
「あれ、二人、知り合い?」

敬語はなしで、呼び捨てにして、と初対面恒例の言葉を交わしたところで、シェリアの影から先日の女性がぴょこりと顔を出す。無垢な少年を思わせる服装や、化粧気のない童顔。いかにも年齢不詳といった風体の彼女は、無邪気に笑いながら私の手を取った。
「あたし、パスカル!よろしく、リドル!」
ぶんぶんと上下に手を揺さぶりながら、快活な彼女とも会話をする。
そしてその影から、先程の彼女よろしくもう一人の少女が顔を覗かせた。人形のように整った顔を、僅かに綻ばせる彼女は可憐で愛らしい。
…シェリアさん含め、全く方向の違う魅力を持った三人である。一緒にいたらさぞかし目立つことだろうと、心の中で呆れてしまった。

「わたしはソフィ。…よろしくね」

そうして。
総勢六名となった私達は、その日のうちにラントへ向けて経ったのだった。
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