アスベル先輩の正規騎士就任、実地任務の無事終了を祝って(教官が)しこたま呑んだ帰りのこと。
とにかく騎士学校に戻り、任務の報告をしなければならない。
漏れ出る欠伸をかみ殺しながら歩んでいたところ、校門の前に見慣れぬ少女が立っているのを見つけた。

人並み外れて整った愛らしい容姿に加え、制服姿の学生らが多い校門前ということも合いまって、とにかく人目を引く少女だった。
憂いを帯びた瞳は長い睫毛に隠され、何かに耐えるかのように沈黙している。

あまりにも場所から浮いている彼女に教官と私が揃って首を傾げるが、アスベル先輩だけは違った。じっと彼女を凝視して、何やら声を出そうと口を開く。
「シェリア…?まさか、シェリアなのか?」
うつむいていた少女が弾かれたように顔を上げ、アスベル先輩の顔を凝視する。「あ、…アス、ベル…?」呆然としたまま出された声。どうやらこの二人、知り合いらしい。

「いや、びっくりしたよ。いつバロニアに?」
「……つい、さっき」

思わぬ来客(たぶん)に喜びと驚きを隠し切れないといった様子の先輩と、淀んだ表情のまま淡々と受け応えるシェリアさん。
彼らの間にあるあまりの温度差に、教官と顔を見合わせてしまった。
しかし嬉々としたアスベル先輩が「来るなら言ってくれれば、出迎えたのに」と何気なく言った途端、シェリアさんの顔色は急変した。

目を見開き、信じられないものを見るような目で、眼前の青年を見上げる。
「手紙を、見ていないの?」
「手紙?…いや、任務があって暫く学校を離れていたから見ていないよ」
首を振るアスベル先輩に、シェリアさんは胸の前で両手を握り締めた。そして再びうつむき、搾り出すような声で、手紙の内容を告げる。


「…アストン様が、お亡くなりになったのよ」


…先輩は勿論、私や教官も驚愕して口を開いてしまった。
先ほどまでの喜ばしげな顔は何処へやら。「親父が…?どうして!?」先輩は顔色を変えて、うつむくシェリアさんへ詰め寄った。
無言のままに肩を揺さぶられるシェリアさん。絵面はたいへんよろしくないし、人目も増えている。私は黙って教官の顔を見上げ、彼が頷くのを確認した。

「アスベル先輩、とにかく落ち着いてください。詳細は中で聞きましょう」
「リドル!でもっ…」
「アスベル!」

反論しようとしたアスベル先輩は教官の声に肩を震わせた。
そしてそのまま唇を噛んで頷き、消え入りそうな声で、わかりましたと呟く。
マリク教官は先輩の肩を支え、学内へと消えていった。

「えーと。大丈夫でした?シェリア、さん」
「…ええ。ごめんなさい、突然…」

出遅れた私は、同じく出遅れたシェリアさんを先導して教官室へ向かう。
学内に外部の人間を入れる際は、色々と手続きが面倒なのだ。用紙とペンを手渡しながら、顔色の悪い彼女を慮る。

「気にすることありません。どうやら、緊急事態みたいですし」

シェリア・バーンズ。
美しい字で滑らかに記名した彼女は、そういった名前らしい。
受け取った用紙を係りの者に渡したのち、再び彼女を先導する。マリク教官の私室前に立つが、中からはなんの物音も聞こえて来はしなかった。

気が重いなあ、と背後の彼女に悟られないように溜息をつく。
折角ハードな任務が終わったのに、今度はハードな厄介ごとが舞い込んできた。私もつくづく運がない。

それに、なんていうか。
アストン・ラントの死は、もっと大きな動乱の始まりでしかないような、そんな気がするのだ。
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