旅の仲間に、風紀委員が加わった。

「ヒューバート」
シェリアやソフィがアスベル先輩を診ている間、治療が終了して暇らしい青色の少年に歩み寄る。眼鏡の奥にある鋭い眼光が、まっすぐに私を見上げた。そして目を焼く激しい陽光に、瞼を震わせる。
「なんですか?リドルさん」
素っ気無い返事だが、先輩曰くこれが彼の通常運転らしい。
さして気にすることもなく砂漠に座り込んでいるヒューバートを見下ろして、さっきの稽古だけど、と会話を切り出す。

「わざと負けたでしょ。なんとなく、太刀筋が妙だった」
「…さあ、なんのことだか」
無表情で詰問を受け流すヒューバート。
治療は終わっても痛みの余韻は残っているのか、その顔色は優れない。
空井戸の縁に寄りかかりながら様子を窺っていると、実に居心地悪そうな咳払いをされた。「あ、あのですねえ、」投げやりな声が戻ってくる。

「そんなに凝視されたら困ります。まだ言いたいことがあるんですか?」
「え?いや、別にそういうわけじゃないけど」

この砂漠の中でその髪型は、面白い日焼けの跡がつきそうだなと思っていただけなんだけど。
予想外の言葉に戸惑う私と、すっくと立ち上がるヒューバート。
彼は眼鏡のブリッジを中指で押し上げ、「リドルさん」と妙に改まった声音で言う。
雰囲気の急変に首を傾げる。…そして私にヒューバートの指が突きつけられた。

「髪に木の葉が絡まっています。気になるのですぐに払ってください」
「えっ」
反射的に利き手で髪を抑える。が、彼の言う木の葉は見つからない。

「ど、どこ?ていうかいつから…」
「ぼくに話しかけてくる直前です!そこではなくてもう少し左、もう少し上です」
露骨に苛立った口調で喚くヒューバート。半ば混乱しながら自らの頭を触る私がもどかしかったのか、耐えかねたように手を伸ばしてきた。
利き手側とは全く別の場所から取り除かれる、一枚の葉。
それを砂漠に投げ捨てたヒューバートは、安堵したかのように息をつく。

そして私から目を逸らし―…硬直した。

「ヒューバート、リドルと仲良しなんだね」
「二人は歳も同じだからな。仲良くなってくれるのは俺も嬉しいよ」
「うんうん。私も嬉しい」

輝く笑顔でこちらを見ているアスベル先輩とシェリア。傍らで微笑むソフィ。
生ぬるい視線を一身に受けたヒューバートは瞬時に顔を紅潮させると、叩きつけるような怒号を張り上げる。
実に楽しげに逃げる三人、追う弟。

「…お礼言い損ねた」
「まあいいんじゃない?弟くん、自分が気になるからやったっぽいしね〜」
多少気分がよくなったらしいパスカルが間延びした声で応える。

「見れば見るほどアスベルとは正反対だな。バランスがとれているとでもいうべきか」
戯れながら先行してしまった四人のあとを急ぐことなく追跡し、まったりと考察するマリク教官。
そうですねえと同調しつつ、水筒から口内を湿らせる程度に水分を摂取する。

「正反対すぎて似てるところもあるみたいですね。単純なとことか」
「同感だ」
「…なんかさー、二人ともアスベルに対しては結構辛辣じゃない?」
「「そんなまさか」」

失笑しながら声を揃えた私と教官。
その反応が面白かったのか、パスカルはけらけらと笑いながら「そっかあ」と返答する。
「ま、アスベルが単純ってのはあたしも同感だけどね」
「……パスカルに言われては、あいつもおしまいだな…」
教官が口角を引き攣らせる。

前方から怒り心頭な単純弟・ヒューバートが私達を迎えに来たのは、その直後のことだった。

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