四月一日。
普段とは何もかもが違う朝日に包まれながら、
わたしたちは目的地に着いた順番に、桐条のハイヤーから降り立ちました。

わたしたちは三番目。
行き先は私立月光館学園高等部、一般女子寮。

外観はともかく、規模は巌徒台分寮と変わりないと思われるその施設の前に、
ゆかりさ…いえ、違いますね。ゆかり、と一緒に立ち止まります。

「いい、アイギス?
 今のあなたは人間と変わらないのはわかってるけど、
 それでも一般寮には食堂とかあるから。何かあったら、すぐ私に言うのよ」
「は……、うん」

敬語をやめて、友達として。
そう彼女に言われたのは、ほんの一時間ほど前。
申し出は凄く嬉しかったのだけれど、やはり"習慣"というものは抜け切れない。…そもそも機械のわたしに習慣なんてものがあるのかは分からないけれど。

「ルームメイトは私だけにしてもらうとして、最低限隣室かなぁ。
 できれば知り合いだと助かるんだけど…弓道部の寮生って誰がいたっけ」

ぶつぶつと思案しながら、玄関の押し戸を率先して開けるゆかり。
一変した空気に面食らいつつ、彼女に続いて内部へと入り、軽く周囲を見渡しました。
分寮とは全然違う。
女性しか生活していないというのもあるのでしょうが、やはり纏う雰囲気のようなものが、根本的に。

周囲に人はなかったので、荷物を床に降ろしたままその場で待っていると、数分もしないうちに奥から一人の女子生徒が駆け寄ってきました。

「すいませーん!岳羽ゆかり先輩とアイギス先輩ですよね?
 案内役の子が今外してて…!あたしがご案内します〜」

「あーうん。よろしく〜」
「よろしくお願いします」
口ぶりから後輩らしい彼女の名前を聞き、寮の使用に関する簡単な説明を受けます。
五分程度、でしょうか。
じゃあそろそろ行きましょうかと踵を返した少女に続こうと足を踏み出した、その瞬間。

何時の間にやら開かれていた背後の扉から、火薬の弾ける軽い音が響きました。

「ッ…?」
「…」
頭上から降り注ぐ紙テープ。
煙る硝煙の香りに包まれながら振り返ると、空のクラッカーをわたしたちに突きつけたまま立ち尽くす、呼吸の荒い一人の少女の姿。
「ああ、先輩。おかえりなさーい」
先導していた後輩の能天気な声に続き、声を上げたのはゆかりでした。

「暦…?え、ちょ…なにやってんの!?」
「ご、ごめん…歓迎しようと思ってたんだけど、100円ショップが改装閉店中で」

ポロニアンモールまで行っちゃった、と笑いながら、第二撃。
銃声に似た音に反撃しそうになるのをなんとか堪えながら、今度は紙吹雪を顔面から浴びます。
背後からちゃんと掃除してくださいよぉと笑いながら遠ざかる、後輩の足音が聞こえました。

「改めて、いらっしゃいゆかり。そしてアイギスさん。
 今日からあなたたちの隣人になる、同級生の御倉 暦です」

手元に残ったクラッカーを投げ捨てて、暦さんが笑う。
満面の、とはいえないまでも、相応に温かくてやさしい笑顔。
段々笑うようになってきた、明るくなってきた。はたまた、かわいくなった。
風花さんや順平さんが散々評していた、わたしの知らなかった人。

学校で見かけることはあったけれど、対面するのは今が初めてでした。
…初めて、なのに。

「よろしくお願いします。暦さん」
初めてなのに、違和感がない。この寮とは違って、彼女の持つ雰囲気はわたしたちに近い。
そんなふうに思いながら頭を下げて、自己紹介の言葉を口にします。

隣で涙交じりの笑顔を見せるゆかりと一緒に。
これからの未来に、思いを馳せて。

outer (客観的な)

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