やたらとカラフルな字やら絵で彩られたアルミ缶を開き、専用の皿をテーブルに置く。

半生タイプのドッグフードが皿に落とされるのを間近で眺めるコロマル。
その口からは既によだれが垂れていて、つい最近まで野良で生活していた犬とは思えない我慢強さを見せていた。

「待てよ、コロちゃん。すぐやっから」
「ワン!」

威勢良く応答し、再びよだれの垂れる口から舌を出すコロマル。
一分一秒でも早く食わせてやりたい。健気に耐える姿は愛らしいが、あまり長く続くと可哀想だ。
缶の中身を残らず皿へ落としてから、皿をテーブルから床の上へと移す。
コロマルは丸い目で俺を見つめ、『よし』が出るのを待ちかねていた。

「よし。食っていいぞ」
「ワン!!」

皿に顔を突っ込んで、がふがふと凄まじい勢いで飯を食うコロマル。
…寮に戻ったは良いものの、不登校の俺は日が高い時間を見事に持て余していた。
しかし、まあ、コロちゃんの世話がきちんとできるのは悪くない。
次は散歩だな、と声をかけながら白い毛並みを撫でると、嬉しげな唸りが返ってきた。



*


そして。
長鳴神社でツキ校生と出くわすというのは、全くもって予想外だった。

「…荒垣先輩、ですよね?真田先輩の友達の」
「……」

しかも見知った顔だった。最悪だ。
名前は忘れたが、例の…春に一騒動あった、あの元マネージャーにくっついていた奴だ。
俺の前で行儀良く待機するコロマルには目も向けず、気まずそうな目をまっすぐに向けてくる後輩。
気まずいのは俺のほうだ。目を逸らすと、ふいにコロマルが駆け出してしまった。
「わっ」
「!」
直進に駆けたコロマルは後輩の足元に座り込み、丸い目でその顔を見上げている。
悲鳴をあげられるかとも思ったが、そいつはむしろ嬉しそうに座り込んでは、コロマルの毛並みを撫でては口元を綻ばせた。

「コロマル、久しぶり」
「ワフ」
「…おめえ、コロちゃ…いや、コロマルを知ってんのか?」

危なかった。
寸でのところで呼称を改めるが、幸いこの女、瑣事には気を留めない人柄のようだった。
まるで質問以外は聞かなかったかのような反応で頷いて、「私、神社常連ですから」と答える。

「荒垣先輩も常連ですよね」
「は?何言ってんだ?」
「あれ、違いました?前までよく"コロちゃん"にご飯あげたりとかし、」
「ワン!!」

聞き捨てならない発言を、コロマルの鳴き声が掻き消す。
「お、お前、見て、」
思わずどもった声を出せば、この食えない後輩は愉しげに笑っては、両手を使ってコロマルの身体を抱えあげた。


「大丈夫ですよ。
 荒垣先輩が小動物大好きなこととか、コロちゃんへのご飯が先輩お手製のこととか、誰にも言ってませんし」


先ほどまでの愉しげな笑いはどこへやら。
まるで有里が好んで使う女型のペルソナのような、厭らしい笑みを浮かべた後輩は、羞恥で顔を赤くする俺を置いたまま、コロマルを抱えて神社の石段を駆け上っていってしまった。

「て、てめえ!待て!」
「待ちませーん」

棒読みなのに腹が立つ。
予想外に俊足だった御倉 暦にまんまと境内を走りまわされた俺は、
結局日が落ちるまでこの女に付き合わされる羽目になってしまったのだった。

「クゥン」
別れ際の、名残惜しそうなコロちゃんの声が耳について離れない。
ここまでコロちゃんが喜ぶのなら、またあの腹立たしい後輩と会うことも致し方ないのかもしれない。……まあ、たとえ冗談でも願い下げなのだが。

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