数日後、聖誕祭当日。

結論から言いますと、イオンの機嫌は最悪でした。
どのくらいかといえば、そうですね。
外面はいつも通りなのですが、目視できない威圧感のようなものが増しています。
形式的に声をかけてきた大詠師(名前は忘れました。豚みたいな容貌です)が、
ぎょっとして二度見し、三度見し、逃げるように去っていったくらいです。

…ええ、すみませんでした。誰がチクったんでしょうか。

私同様イオンの守護についているアリエッタも、どことなく寂しそうです。
なんだか当然のことをしただけなのに、
もの凄く許されない悪行を犯したような心境です。なんという理不尽。

「ユノ」
「ごめんなさい」
「…何も言っていませんけど」

丁寧語を突き抜け、ざくざくと私に刺さる刃物の幻影が見えます。
現在は巡礼碑の正面にいますから、周囲に人々も数多く、
いくら彼といえど態度を崩すことはできないのでしょう。

「そろそろ戻ってくる頃合ですから、下がって良いですよ」
「…?」

意味の分からない命令に首を傾げていると、彼の言葉通り。
今まで席を外していた導師守護役たちがぞろぞろと集結してきました。
意味がわかりません。どういったことでしょうか。

「アリエッタ」
「…は、はい。イオン様」
「僕は後から行きますから、ユノと一緒に街を回っていてください」
「えっ…」

アリエッタが呆気に取られて口を開けます。
私も大分驚いたのですが、えーと、つまりこういうことですか?

アリエッタが聖誕祭に参加できないのを残念がっていると思って、
彼女を参加させるためだけに、わざわざ導師守護役を分断した、と?

「み、…見上げた馬鹿だな。お前…」
「口調が戻ってますよ。ユノ」
「ぁ、し、失礼しました―…っ痛いッ!!」

丁寧語を崩したことへの叱責か、命令を聞かなかったことへの叱責か。
とにかくイオンは民衆や導師守護役の目を盗み、私の足に蹴りを入れました。
しかもつま先による普通の蹴りではなく、
俗にいうケンカキックというものです。足全体で踏み抜く形のものです。
超痛い。

「早く行ってよ。ペットのご機嫌取りは、お前の仕事だろ」

凄惨ともいえるほど、穏やかにたおやかに微笑んだ導師イオン。

言い返したいことは山ほどありますが、全て封殺しておきましょう。
私に許された返事は、ただひとつ。

「…了解です。我が親愛なる導師」

この無自覚な独占欲と偏愛を持った幼子の命令を遂行する。
そして、暇があれば。
彼がペットと称した彼女を唆しでもして、
この面倒な関係を断ち切ってやろうかとも思います。

ええ、構いませんよね、それくらい。
だってそれが彼の言うところの、私の役目なのでしょう?

*


「アリエッタ。導師に何か手土産でも買って帰りましょうか」
「う、うん!えっと、何がいいのかな…」
「とりあえずそこの蛍光色のケーキを買います。私は食べませんけど」
「…アリエッタも食べたくない、…です…」
「ちゃんと貴女が渡してくださいね。じゃないと食べないでしょうし」
「え」
「すいません、ケーキの中にホタテグミ入れてもらえます?40個くらい」
「えっ…!?」





 


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